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新型コロナ感染予防策の効果を網羅的に推測できるコンピュータモデルを開発-筑波大

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2020年05月11日 PM01:00

テレワークや学級閉鎖などの対策の効果をシミュレーション

筑波大学は5月8日、新型コロナウイルスの感染プロセスを、エージェント・ベース・モデル(個人の行動が集団に与える影響を評価するコンピュータモデル)に実装し、一般の市民や企業、学校などにおいて、実施可能な予防策の有効性についての比較検討を行ったと発表した。この研究は、同大ビジネスサイエンス系の倉橋節也教授によるもの。研究成果は、「人工知能学会論文誌」に公開されている。


画像はリリースより

)の感染拡大に伴い、厚生労働省や各自治体、研究機関、メディアから、さまざまな感染予防策が提示されている。例えば厚生労働省では、石鹸やアルコール消毒液などによる手洗い、咳などの症状がある場合は咳エチケット(マスク、ティッシュなどで口や鼻を覆う)、密閉・密集・密接の三つの「密」を避けること、持病のある人は公共交通機関や人混みの多い場所を避けること、などが推奨されている。一方で、各企業や自治体から感染防止対策が示されており、濃厚接触者の自宅待機、テレワークや時差出勤、外出や対面の会議を避けること、などが推奨されている。しかし、テレワークや学級閉鎖など、さまざまな感染予防策に対して、それらの効果を示すデータが限られる中で、新型コロナウイルスへの効果を網羅的に推定することは困難だ。この課題に対し倉橋氏は、個々の住民をコンピュータ上で自律的に行動するようにモデル化するエージェント・ベース・モデリング手法を用いた感染症モデルを用い、それらの効果の比較推定を試みた。

種々の公的調査データを用いてモデルを設定

モデルでは、隣接する2つの町があり、それぞれの住民が通勤や通学、商業施設利用などを定期的に行うことを想定した。1つの町には子どものいる4人家族と、大人だけの2人家族が居住し、子どものいる4人家族は100世帯あり、2人の親と2人の子どもによって構成されるとした。大人だけの2人家族は80世帯あり、合計で560人の住民が住んでいるとした。そして、同じ構成の町がもう一つあり、全体で1120人のモデルとした。親の10%が別の町に通勤し、それ以外の親は日中に自分の町で働き、すべての子どもは学校に通うとした。通勤をする両親のうち半分は電車を利用、2人家族の大人は高齢者を想定しており、通勤はしないとした。医療サービスを提供する共同の病院が1つあり、各町から5人、合計10人がこの病院で働くとした。住民の中の大人は、定期的に商業施設などの人混みのある場所を訪れるように定義された。

モデルの基本パラメータである、人口データ、通勤比率は、総務省統計局の国勢調査の首都圏データを参考とした。高齢者比率については、国内の2017年の65歳以上の高齢者人口比率が約28%であることを用いた。子どものいる世帯構成は、通勤者数(親)と通学者数(子ども)を同数とした。1日あたりの店舗等外出回数は買物行動調査データを用い、各場面における感染伝播確率や接触率は、新型コロナウイルスの基本再生産数R0(2.0〜2.5)と、住民1日当たりの接触時間に基づいて設定した。接触率は、シミュレーション実験の中で各予防策シナリオに合わせて変更。感染者重症化率と世代別致死率は、2020年2月〜3月に公表された中国CDC(中国疾病預防控制中心)およびWHO(世界保健機関)の報告に基づいて設定した。

個々の予防策を単独または部分的に実施しても大きな効果は得られない

このモデルに対して、27種類の感染予防策を策定し、それぞれの効果を予測するために、(1):対策なし、(2)〜(11):基本予防策の効果、(12)〜(22):基本予防策の複合効果、(24)〜(27):接触率低減策と基本予防策の複合効果、の4カテゴリーに分け、入院数、死亡数、感染速度のシミュレーションを実施。その結果、有効な効果が期待できるのはテレワークや学校閉鎖、外出抑制などを組み合わせた複合予防策を取った場合であり、単独の対策や、部分的な対策の組み合わせの場合は、入院数の減少が見られず、有効な予防策にならないことがわかった。一方、学校閉鎖のような社会的な影響が強い政策以外でも、全接触低減策に発熱後自宅待機の強化対策を組み合わせた(23)の複合策、時差通勤とテレワークを組み合わせた(25)の複合策でも、十分に効果的な予防が可能であることが示唆された。これにより、予防策の実施される場所や時間に「抜け」が一つでもあった場合は、感染リスクが高いままであると推測された。また、複合予防策に、店舗等への外出頻度低減策を組み合わせた場合に、大きな効果が見られた。店舗へは、親や子どもに加えて高齢者も定期的に訪れており、高齢者を含めた感染クラスターが発生するリスクが高い場所と考えられる。また、重度入院者数の世代別の数値は、若年世代や成年世代に比べて、高齢世代ではどの場合においても数倍高くなっている。このことから、高齢者への感染をいかに防ぐかが、全体の重度入院者や死亡者を減らすことにつながるものと考えられた。

加えて、感染力のある患者を自宅に待機させるだけでは、家庭内感染が発生し、家族から外へと感染が広がることがわかった。現状では、PCR検査数や検査確定までの時間的制約から、感染が疑われる発熱者でもすぐに入院させることはできず、一定期間の自宅待機措置が取られている。このような状況を避けるためには、家族を含めた外出時の時差通勤、テレワーク、学校閉鎖、店舗等への外出抑制などの対策を組み合わせることが極めて重要であること、また、感染者に対しては、自宅待機ではなくホテル等への隔離が有効であることが示唆された。

なお、本研究で用いたモデルを利用し、イベント開催の影響(イベント規模よりもイベント種類が影響すること)、PCR検査率増加の効果と影響(感染可能性のある人へのPCR検査数を増やすことで感染者数が抑制できること)、都市封鎖の効果と解除期間の推定(遅く不十分な封鎖では感染拡大が再発すること)などが既に示されている。

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