腫瘍選択的融解ウイルス製剤「テロメライシン」投与
岡山大学は12月6日、同大学病院消化管外科白川靖博講師、同大大学院医師薬学総合研究科消化器外科の学藤原俊義教授らの研究グループが、世界初となる食道がんに対する腫瘍選択的融解ウイルス製剤「テロメライシン」を用いた放射線併用ウイルス療法の臨床研究を開始したと発表した。
「テロメライシン」(Telomelysin、開発コード:OBP-301)は、岡山大学で開発された抗がんウイルス製剤で、同大発のバイオベンチャー オンコリスバイオファーマ株式会社によって臨床開発が進められている。今回の臨床研究では、同社が米国で製造した臨床用のテロメライシンを岡山大学病院に輸入し、使用しているという。
(画像はプレスリリースより)
手術や標準的治療が難しい高齢患者に
臨床研究における投与を受けているのは、岡山県内在住の80歳代の女性で、高齢のため手術が難しいほか、軽度腎機能障害があり、通常の抗がん剤治療も困難であったという。そこで、岡山大学病院遺伝子治療臨床研究審査委員会 安全・効果評価・適応判定部会で適応が検討され、承認を得て臨床研究開始となったそうだ。
患者には、11月29日、局所麻酔下で内視鏡によって胸部食道患部を注射針で穿刺し、0.2mlずつ5か所に合計で1mlとなるテロメライシンを投与。当日の一過性微熱以外に副作用はみられず、投与3日後の12月2日から1日2グレイ、週5日の放射線治療を開始している。
発表によると、今後12月16日、12月30日の2回、同様に5か所ずつのテロメライシン投与を行う予定で、放射線治療は来年2014年1月16日まで継続するとしている。治療後は3か月目に内視鏡で治療効果を判定するとともに、患部組織を採取、病理学的検討も行うという。
(画像はプレスリリースより)
新たな低侵襲の治療開発に期待
テロメライシンは、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスのE1領域に、多くのがん細胞で活性が上昇している酵素のプロモーター、テロメラーゼを遺伝子改変によって組み込み、がん細胞中で特異的に増殖しがん細胞を破壊することができるようにしたウイルス製剤。テロメライシンはがん細胞に感染すると、1日10万~100万倍に増殖する。一方正常組織細胞では、感染してもウイルス増殖はないため、損傷が少ないと考えられている。
テロメラーゼ活性を標的とするがん治療目的の生物製剤で、このように生体内で自立性をもって増殖する点で、従来の抗がん剤にない抗腫瘍効果の作用機序をもつ。放射線によるがん細胞のDNA損傷の修復を阻害することで、放射線治療の感受性を大幅に増強できるという特徴もあるという。オンコリスバイオファーマが米国で実施した臨床試験で、がん患者において投与部位での腫瘍縮小効果などの有効性が認められ、また重篤な副作用は報告されていない。
研究グループでは、今回の臨床研究が順調に進み、安全性と効果が確認されることによって、高齢や合併症などの理由から、標準的な手術や抗がん剤治療が受けられない食道がん・頭頸部がんの患者にとって福音となる、新たな低侵襲の治療選択肢が生まれることを期待するとしている。(紫音 裕)
▼外部リンク
岡山大学 プレスリリース
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