遺伝子異常による原発性免疫不全症のCVID、ほとんどの患者で原因遺伝子不明
東京医科歯科大学は4月23日、APRIL遺伝子異常による抗体産生不全症を世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科茨城県小児・周産期地域医療学講座の今井耕輔准教授、発生発達病態学分野の葉姿汶大学院生、森尾友宏教授の研究グループが、広島大学、カロリンスカ研究所(スウェーデン)と共同で行ったもの。研究成果は、国際科学誌「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
今分類不能型免疫不全症(CVID)は、遺伝子異常による原発性免疫不全症の中で最も多い疾患。抗体産生の低下により、反復あるいは重症化する細菌感染症・ウイルス感染症を示す。B細胞数は正常範囲だが、メモリー(記憶)B 細胞と形質細胞のいずれかあるいは両者の減少が認められる。これまで 10 以上の原因遺伝子が同定されているが、各遺伝子異常は極めてまれであり、ほとんどの例では原因遺伝子が同定されていない。疾患遺伝子の解明はヒト抗体産生のメカニズムの解明につながり、新たな治療法の開発への応用が期待される。
成人CVID患者を対象に全エクソン解析を実施し、APRILに変異を発見
今回研究グループは、クラススイッチ記憶B細胞と形質細胞が著明に減少している成人分類不能型免疫不全症(CVID)患者で全エクソン解析を実施。その結果、B細胞の増殖、分化および形質細胞の生存に関わる分子APRILをコードするTNFSF13遺伝子に変異を発見した。
APRILは主に単球、樹状細胞などの骨髄系細胞から分泌され、可溶性分子として働いており、欠損マウスは「IgA欠損症」を呈することが知られていたが、ヒトAPRIL変異患者は未だ発見されていなかった。
APRIL欠損<メモリーB細胞の刺激欠損<形質細胞の分化・生存障害<CVID
今回発見された患者は、末梢血細胞および血清中でのAPRIL発現を完全欠損しており、APRIL欠損症と診断された。同患者からiPS細胞を樹立し、APRILを分泌しない樹状細胞に分化させ、健常者のメモリーB細胞と共培養したところ、形質細胞への分化は減少していた。しかし、組換えAPRILにより形質細胞への分化は回復した。以上のことから、同患者ではAPRILによる刺激が欠損することで、形質細胞への分化もしくは生存が障害され、その結果、抗体産生不全を呈していると考えられた。
CVID患者の原因遺伝子にはさまざまなものがあり、その解析からヒトにおける抗体産生のメカニズムが明らかになってきたが、今回新たにAPRIL変異によるCVIDが発見された。患者末梢血は頻回に入手することが困難なため、同研究ではiPS細胞を樹立して樹状細胞へと分化させ、in vitroでB細胞分化を行うことで、新たな病態モデルの確立に成功した。
研究グループは、「形質細胞は生涯生存し抗体産生をすることが知られていたが、本研究により、APRILがその分化もしくは生存に必須であることが証明された。このことから、今後は組換えAPRILを用いた抗体産生への治療応用が期待される」と、述べている。
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