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SSDにはASD傾向があるのに対し、ASDにはSSD傾向がないと判明-東京医歯大ほか

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2020年04月20日 PM01:00

SSDとASDは症状や行動など重複が多いが、関係性は十分に解明されていない

東京医科歯科大学は4月17日、脳機能的結合を基にした統合失調症・自閉症の疾患判別法を開発したと発表した。この研究は、同大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野の高橋英彦教授、(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)・脳情報通信総合研究所の川人光男所長、京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)の研究グループが、量子科学技術研究開発機構、昭和大学発達障害医療研究所、東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学講座、広島大学大学院医歯薬保健学研究科、ジョンズホプキンス大学精神科、ユトレヒトメディカルセンターとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Schizophrenia Bulletin」のオンライン版で公開されている。


画像はリリースより

幻覚や妄想、思考障害などの精神症状を主とする統合失調症スペクトラム障害(Schizophrenia Spectrum Disorder:)、社会性やコミュニケーションの障害などの精神症状を主とする自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:)という2つの精神疾患の関係性は、この半世紀の間、議論されてきた。ASDの幼少期からの発達歴とSSDの思春期以降の発症時期は異なるが、最近の生物学的な研究では、2つの疾患の重複性や共通点が示されている。脳MRI画像の研究では、共通した脳部位の灰白質の体積異常、脳の活動性の異常が指摘されている。このようにSSDとASDの関係性についてはまだ十分に解明されたとは言えない状況だ。

精神疾患の関係性が明確でない根本的な理由は、精神疾患の信頼できる生物学的な指標がないこと、また、米国の精神疾患の診断基準のように、精神疾患の診断に用いられる指標の多くが患者の症状と行動から規定されることにある。患者の症状は、個々に異なり、不規則に変化している。そのために、生物学的なエビデンスと診断との間にギャップが存在する。SSDとASDの関係性を明らかにするためには、生物学的な手法と従来の疾患分類的な診断手法の両方が必要となってくる。そこで研究グループは、両方の手法で人工知能技術を用いて、SSD(統合失調症と統合失調感情障害を含む)の信頼性の高い判別法の開発を実行した。さらに、以前に研究グループが開発したASDの信頼性の高い判別法も利用することにより、診断の確実性をSSD度、ASD度として、定量的に表すことが可能となった。このSSD度とASD度をそれぞれ、二次元の座標として、個々の診断の確実性を表示し、同時に集団としてのSSD群、ASD群の関係性を定量的に評価した。

脳MRIによる脳機能的結合と人工知能技術からSSD判別法を開発、高い精度を確認

研究参加者は日本の成人計170人で、行動と症状により診断されたSSD患者68人・健常者102人(京都データ)。研究グループは、安静時のMRI上の脳機能的結合(9,730個)から、ATR脳情報通信総合研究所で開発された革新的な人工知能技術を適用することで、SSDの診断に関わる16個の機能的結合を特定。16個の機能的結合の重み付け和でSSD度を定量化し、SSDもしくは健常者いずれかの判別法とした。判別率の精度を示すAUCは、SSD判別法を慢性期のSSDを含む京都データに適用した場合、0.83と高い判別率を示した。開発されたSSD判別法は、海外の米国の慢性期のSSDデータに対してはAUC=0.75、オランダの慢性期のSSDデータに対しては、AUC=0.66だった。一方、米国の初発エピソードのSSD患者データに対してはAUC=0.42と低い判別率を示した。

SSD判別法の16個の機能的結合は、左右大脳半球内・半球間に広く分布している。この16個の機能的結合は、以前に同研究チームが開発したASD判別法の機能的結合と全て異なる結合で、ASD判別法とは独立した判別法だという。SSDの判別法を行動と症状により診断されたASDデータ(、昭和大学などによる集積)、うつ病データ(広島大学などによる集積)に適用したところ、いずれも低い判別率となった。ASDやうつ病と詳しく比較した結果、開発したSSD判別法はSSDに特異的であることが実証された。

生物学的な側面からの各精神疾患の関係性についての解明につながると期待

最後に、SSD判別法により定量化された個々のSSD度を横軸、以前に開発のASD判別法により定量化されたASD度を縦軸として、二次元の座標上に、京都データのSSDと健常者、日本のASDと健常者を示した。その結果、SSD-ASDの座標面では、SSD群の中心がASD軸上で健常者群の中心よりもASD度が高くなりSSD群とASD群が重なり合う要因となっていた。一方でASD群の中心はSSD軸上で健常者群の中心と差はなかった。また、ASD群の中で、SSD度が高いほど、ASD度が高くなる傾向が有意に認められ(P=0.040)、一方でSSD群の中ではSSD度とASD度の関係性は認められなかった。このようにSSD群とASD群は、重なり合う関係性と、非対称な関係性の両方の特性があることが、SSD-ASD座標により示された。

今回の研究では、生物学的な安静時の脳機能結合と、従来の症状や行動から規定される精神疾患の診断を基に、高度な機械学習アルゴリズムを用いてSSDの判別法を新たに開発した。SSD判別法は、日本のデータだけでなく、MRI機種や国籍を超えて海外データにも汎化されるもの。さらに、このSSD判別法と研究グループが以前に開発したASD判別法を応用し、SSDとASDの診断の確実性を定量的に視覚化することで、2つの疾患の関係性が世界で初めて明らかとなった。つまり、両者には重複する部分も多いが、SSDにはASD傾向があるのに対して、ASDにはSSDの傾向がないことがわかった。研究グループは、「今回の研究で、2つの精神疾患の関係性を定量的に視覚化することが可能となった。今後は、他の精神疾患についてもそれぞれの判別法を開発し、また、生物学的な診断の確実性を計量することで、さまざまな精神疾患の関係性を広く検討することができる。さらに今後、精神疾患の個別化医療への応用が期待される」と、述べている。

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