歯周病はジンジバリス菌が線毛を使って形成するバイオフィルムに起因
大阪大学は4月14日、歯周病菌の線毛の構造とその仕組みを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院理学研究科の今田勝巳教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のマティアス・ウォルフ准教授、柴田敏史博士、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の庄子幹郎准教授、中山浩次名誉教授の共同研究グループによるもの。研究成果は、国際科学雑誌「Nature Microbiology」の電子版に掲載されている。
画像はリリースより
歯周病が進行すると歯を取り巻く骨の吸収が起こり、放っておくと歯が失われる。日本人が歯を失う1番の原因が歯周病で、35歳以上の日本人の約80%が歯周病で苦しんでいるとの報告がある。歯周病の主要病原細菌の1つであるジンジバリス菌は、近年の研究から歯周病以外に、糖尿病、関節リウマチ、心血管疾患、膵がん、アルツハイマー病に関係することがわかった。歯周病は、歯の表面に蓄積する歯垢というバイオフィルムに起因する。バイオフィルムは、歯周病の原因菌が、「線毛」(ピリンと呼ばれるタンパク質が集まってつくられる)という毛髪様の付着装置を使って宿主にとりつき、さらに細菌同士をからめて集合体をつくることで形成される。バイオフィルムの形成を阻止できれば歯周病を防ぐことができるため、線毛の研究に関心が集まっている。
ジンジバリス菌はバクテロイデア綱に属する細菌である。2016年に長崎大学の庄子幹郎准教授、中山浩次名誉教授らは、バクテロイデア綱の多くの細菌が他の細菌と全く異なる線毛を持つことを発見し、「5型線毛」と命名した。バクテロイデア綱に属する細菌(バクテロイデス属菌やプレボテラ属菌)の多くは、健康や老化、病気などへの関与が明らかになってきた腸内微生物叢を構成する主要な腸内細菌。この腸内微生物叢の形成に5型線毛が関与する可能性が指摘されている。また、ジンジバリス菌は、菌株により異なる5型線毛を持つが、線毛の違いがジンジバリス菌の病原性と密接に関連することが最近わかってきた。しかし、5型線毛の構造や形成の仕組みは不明なままであった。
ジンジバリス菌5型線毛の立体構造を原子レベルで解明、線毛をターゲットとした新薬開発へ
大阪大学のチームは、大型放射光施設「SPring-8」を用いてX線結晶構造解析を行い、強毒性株と弱毒性株の「FimAピリン」(ジンジバリス菌の5型線毛を形成する主要なタンパク質)の構造を詳しく調べ、構造の違いを原子レベルで明らかにした。長崎大学とOISTのチームは、遺伝子組み換えにより大量に作成したFimAピリンにプロテアーゼを添加し、試験管内で線毛が形成されることを発見した。そして、この線毛をOISTの高性能クライオ電子顕微鏡とスーパーコンピュータ「Sango」を用いて解析し、5型線毛の原子レベルでの構造を解明した。
各チームの解析結果を統合した結果、5型線毛が形成される仕組み、線毛の構築過程でピリンが膜に保持される仕組みが明らかになった。5型線毛の形成は、プロテアーゼがFimAピリンのドナー鎖という領域をつなぎとめている部分を切断し、ドナー鎖が外側に解放されることで始まる。解放されたドナー鎖は反転してFimAピリンから突出し、隣接するFimAピリンの溝に挿入されることで2つのピリンが連結。この現象が連続して起こることで、ちょうど車両が連結して列車を形成するように、線毛が伸長することがわかった。
「研究成果は、ジンジバリス菌が原因の疾患のみならず、5型線毛を有するあらゆる細菌により引き起こされる疾患にも有効な、線毛をターゲットとする新しい抗菌薬の開発への一歩となる。また、私たちの健康に大きな影響を与える細菌のバイオフィルム形成や腸内微生物叢形成の理解を大きく前進させる成果である」と、研究グループは述べている。
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