ヒトiPS細胞は肝細胞移植用の新たな肝臓の細胞源に有用か
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は4月10日、ヒトの肝硬変の病態を再現した非ヒト哺乳類(カニクイザル)の肝線維症モデルを確立し、さらに、免疫抑制剤投与下に、カニクイザル肝線維症モデルの肝臓へヒトiPS細胞より作製した肝細胞を移植する方法を開発し、移植した肝細胞がこのカニクイザルモデルの肝臓に生着できることを示したと発表した。これは、同大大学院医学研究科肝胆膵・移植外科学、CiRA増殖分化機構研究部門の安田勝太郎研究生、肝胆膵・移植外科学の上本伸二教授、CiRA増殖分化機構研究部門の長船健二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
肝硬変のような肝不全を伴う疾患の患者を救命する目的で、肝移植療法が広く行われている。しかし、肝移植のドナーが不足しているため、多くの患者が肝移植を受けられずに亡くなっている。肝不全患者の肝機能を補助して、肝移植のための適切なドナーがみつかるまで命をつなぐ目的で、「肝細胞移植療法」が注目されてきた。しかし、肝細胞移植に用いられる肝細胞は、肝移植に使用できない質の低い肝臓から採取されることが多く、また、そもそもドナー肝が不足していることから、新たな細胞源の開発が望まれている。
そのような状況の中、無限の増殖能と肝細胞への分化能をもつヒトiPS細胞が樹立され、新たな移植細胞源として注目されている。ヒトiPS細胞より作製された肝細胞は、ヒト肝細胞の機能を持ち、げっ歯類の体内でも肝細胞として機能することが報告されている。しかし、実際に患者に移植するにあたり、よりヒトに近い動物モデルで治療効果を評価する必要がある。そこで研究グループは、ヒトiPS細胞より作製した肝細胞の治療効果を検証可能なカニクイザル疾患モデルを作製することを目指した。
ヒトの肝細胞移植と同様の方法で、モデルザル肝臓にヒトiPS細胞由来肝細胞を移植、生着
はじめに、3頭のカニクイザルに対し、肝細胞に特異的に障害を与える薬剤であるチオアセトアミドを投与し、薬剤性肝硬変の病態再現を試みた。マウスなどとは異なり、薬剤に対する反応は個体差が大きく、各個体に合わせて適宜薬剤の投与量などを調整。長期間繰り返し投与を行うことで、3頭の肝臓にヒトの肝硬変様の線維化を生じさせることに成功した。肝線維症を生じた3頭のカニクイザルは、典型的な肝硬変の血液所見を呈し、さらに肝硬変の主要な合併症である「門脈圧亢進症」の所見も呈した。
次に、実際の臨床での肝細胞移植と同様に、免疫抑制剤投与下にカニクイザルの門脈にカテーテルを留置し、門脈から線維化を起こした肝臓に、ヒトiPS細胞由来肝細胞の移植を行った。2週間後に肝組織を確認したところ、肝硬変様の線維化を生じた肝組織の中に、ヒトiPS細胞由来肝細胞が生着していることを確認した。
「本研究の成果は、カニクイザル疾患モデルを用いた前臨床試験を加速させ、肝硬変に対する細胞療法、とりわけヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた細胞移植療法による肝臓再生医療の開発に大いに貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・京都大学iPS細胞研究所 プレスリリース