起床時に手足のまひが判明する脳梗塞など、全体の約2割
国立循環器病研究センターは3月30日、発症時刻が不明の脳梗塞において、頭部MRIの検査結果で発症から時間が経過していない所見であれば静注血栓溶解療法を安全に行うことができることを、無作為割付試験(THAWS試験)により解明したと発表した。この研究は、同研究センターの豊田一則副院長(研究代表者)、古賀政利脳血管内科部長らの国内多施設共同研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」の電子版に掲載されている。
画像はリリースより
脳梗塞は、死因の第4位で、要介護疾患の上位を占める疾患。発症4.5時間以内の脳梗塞患者に対してはアルテプラーゼ静注による血栓溶解療法が有効だが、発症時刻が不明の脳梗塞では最終健常確認時刻を発症時刻とみなすため、静注血栓溶解療法の適応になり難いことが問題だ。起床時に言葉の問題や手足のまひが判明する脳梗塞は、発症時刻が不明の脳梗塞の代表であり、全脳梗塞の約2割を占める。
一方、頭部MRI検査を行い拡散強調画像上の脳梗塞所見がFLAIR画像で明らかではない場合は、発症から4.5時間以内である可能性が高いことが示されている。そこで、研究グループは今回、FLAIR陰性所見を示す患者に対して、アルテプラーゼ静注による血栓溶解療法の有効性と安全性を調べた。
有効性・安全性ともに、標準内科治療群との統計的な有意差なし
研究グループは、欧州で行われていたWAKE-UP試験と同様の結果を得ることを目標に、300例を登録する多施設無作為割付オープンラベル盲検下エンドポイント評価試験を実施。発症時刻が不明の脳梗塞でFLAIR陰性所見を認める患者を、アルテプラーゼ0.6mg/kg静注療法群(71例)と対照群である標準内科治療群(60例)に無作為に割り付けて有効性と安全性を評価した。
WAKE-UP試験が先に終了し、静注血栓溶解療法の有効性が証明されたことを受けて、131例(44%)を登録して試験を終了した。その結果、有効性の指標において、登録3か月後完全自立(modified Rankin Scale 0-1)の割合は、静注療法群47%(32例/68例)、標準内科治療群48%(28例/58例)(相対危険度0.97、95%信頼区間0.68-1.41、p=0.892)であり、2群間で統計的な有意差はなかった。安全性の指標においては、治療開始後22-36時間後の症候性頭蓋内出血の割合が静注療法群と対照群では各1.4%(1例/71例)と0%(0例/60例)(p>0.999)、90日以内の死亡率が静注療法群と対照群で各々2.8%(2例/71例)と3.3%(2例/60例)(p>0.999)であり、2群間で統計的な有意差はなかった。
今回の結果は、試験期間中に脳主幹動脈閉塞による脳梗塞に対する血栓回収療法の有効性が確立したため、脳主幹動脈閉塞の患者の登録がほとんどなかったことが影響した可能性があるという。また、オープンラベル試験であったため、結果的に標準内科治療群に対して登録直後から積極的な抗血栓療法を行ったことが、この群における完全自立が多かった原因の可能性があるとしている。
2019年3月に改訂された静注血栓溶解(rt-PA)療法の適正治療指針(第三版)では、FLAIR陰性所見を示す発症時刻が不明の脳梗塞患者に対する静注血栓溶解療法について、考慮してもよいことが示されたので、研究グループは、有効性と安全性を検討する観察研究を行っている。さらに、4つの同種試験との統合解析を行っており、発症時刻が不明の脳梗塞に対する静注血栓溶解療法の有効性と安全性の更なる検討を行い、同療法の確立に向けて研究を継続していくとしている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース