CTなどの画像検査では高い偽陽性率という課題、より高精度で簡便な診断方法の開発へ
東京医科大学は3月31日、通常はCTなどの画像検査で診断される肺がんについて、血液による診断モデルの作成に成功したと発表した。これは、同大医学総合研究所分子細胞治療研究分野の落谷孝広教授と、国立がん研究センター中央病院・呼吸器外科研究チーム、横浜みのるクリニック、東レ株式会社、株式会社ダイナコムの共同研究によるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
肺がんは、日本ならびに全世界において、がんによる死亡原因の第1位である。そして、肺がんの5年相対生存率は、I期で81.6%であるが、Ⅳ期では5.2%まで低下する(国立がん研究センターがん情報サービスより)。つまり、より早期の段階で肺がんを発見することが、肺がん死亡を減らすために最も重要な方策といえる。近年、胸部CT検診による肺がん死亡率の低下が報告されているが、CT検診には高い偽陽性率とそれによる不必要な精密検査の増加という課題もあり、より高精度で簡便な診断方法が求められている。
マイクロRNAは、血液や尿、痰などの体液中に含まれる19~22塩基の小さなRNAで、がん等の疾患に伴い、体液中でその種類や量が変化することが近年明らかになっている。そして、体液中で微量でも検出できることから、患者への負担が少ない高精度の診断バイオマーカーとして期待されている。研究チームはこれまでに、卵巣がん、食道がん、脳腫瘍、骨軟部腫瘍の診断などの研究成果を発表。今回の研究は、肺がんの早期診断に有用なマイクロRNAを同定することを目的に行われた。
2つのマイクロRNAの組み合わせにより、病期/組織型に関わらず高精度に診断
切除可能な肺がんがある患者1,566人と健常者2,178人、合計3,744人の血清中のマイクロ RNA 2,588種類を網羅的に解析。切除可能肺がんで有意に変化する複数のマイクロRNAを同定し、そのうち2種類のマイクロRNA(miR-1268bとmiR-6075)を組み合わせることで、切除可能肺がん患者を極めて高い精度(感度95%、特異度99%、AUC99.6%)で診断できるモデルを作成した。
肺がんの病期別の検証において、IA期96.1%、IB期93.7%、IIA期97.3%、IIB期96.7%、IIIA期90.2%、IIIB期83.3%、IV期100%と、どの病期においても高精度で肺がんを診断可能であることが確認された。また、組織型別の検証でも、腺がん95.1%、扁平上皮がん94.2%、小細胞がん90.9%と、組織型によらず高精度で肺がんを診断可能であった。さらに、この切除可能肺がんの診断モデルは、肺がん患者180人の術後の血清については「陰性」と診断。従来の腫瘍マーカーと似た挙動(肺がん切除後に数値が低下)を示した。
今回作成された血清マイクロRNAを用いた切除可能肺がん診断モデルは、過去に報告された診断モデルと比較してきわめて高精度であり、意義の大きい成果である。「今後、この診断モデルの有効性を前向きの臨床研究で検証し、血液による肺がん早期診断の実用化に向けて大きな前進が期待される」と、研究グループは述べている。
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