神経の活動が記録できる幼児用MEGを用いて、音声刺激への大脳生理学的反応を調査
金沢大学は2月26日、産学官連携のプロジェクトで開発した「幼児用脳磁計(MEG)」を活用し、脳の大脳生理学的反応から、子どもの典型的な発達における脳発達と知能が予測できる可能性を示したと発表した。この研究は、同大子どものこころの発達研究センターのアンキョンミン特任助教、人間社会研究域学校教育系の吉村優子准教授、医薬保健研究域医学系精神行動科学の菊知充教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Human Brain Mapping」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
近年の脳科学分野においては、子どもの脳発達と知能の研究が注目されている。知能に関しては、歴史的にさまざまな議論がされており、人間の知能を究明するための仮説が立てられてきた。知能の研究に大きな影響を与えた初期の心理学者であるGaltonとSpearmanは、感覚処理と知能は共通の神経処理を共有するため、互いに緊密な関係があると主張した。しかし、このような仮説は行動的観察研究からは証明されていたが、脳科学的にはほとんど明らかにされていなかった。また、さまざまな感覚処理の中でも、脳の聴覚領域は他の脳領域と比べて遅く成熟し、特に音声刺激に対して脳の可塑性が大きいと報告されてきた。
研究グループは今回、子どもの脳発達と知能が大脳生理学的反応から予測できることを明らかにするため、幼児用MEGを用いて、音声刺激に対する大脳生理学的反応を調べた。
今回の研究で用いた幼児用MEGは、超伝導センサー技術を用いて、体に全く害のない方法で、頭皮上から脳の微弱磁場を計測する装置。超伝導センサーを幼児の頭のサイズに合わせ、頭全体をカバーするように配置することにより、神経の活動を高感度で記録することが可能だ。MEGは、神経の電気的な活動を直接捉えることが可能であり、その優れた時間分解能と高い空間分解能から、脳の機能を評価する方法として期待されている。さらに、放射線を用いらず、狭い空間に入る必要がないことから、幼児期の脳機能検査として存在意義が高まっている。
子どもの発達や認知的な程度に合わせた学習支援・教育への貢献に期待
研究グループは3~8歳の健常児49人に対し、MEGを用いて「ね」という音声刺激を聞いている時の大脳生理学的反応を調べ、脳反応と子どもの月齢や標準化された知能検査(カウフマンアセスメントバッテリー:K-ABC)によって測定された知的能力の関係を分析した。その結果、音声に対する左脳の脳反応は子どもの月齢と高い相関があり、右脳の脳反応は、子どもの流動性知能と高い相関があることが明らかになった。
今回の研究成果により、子どもの脳神経および認知的な発達を、行動的反応からだけでなく、6分程度の脳磁計測によって、大脳生理学的反応から予測できる可能性が示された。幼児期はさまざまな学習が進む時期であり、脳神経や認知発達の程度や速度は子どもによって異なる。同手法を用いることで、子どもの発達の程度や特徴について客観的に捉えることが可能となり、子どもの発達および認知的な程度に合わせた学習支援や教育に、より早くつながることが期待される。
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