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がん細胞産生の乳酸がILC2機能を弱めることで、がん細胞増殖を助ける-理研ほか

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2020年03月17日 AM11:15

悪性黒色腫に着目し、がん周囲の環境とILC2との関係を調査

理化学研究所は3月13日、がん細胞が産生した乳酸が2型自然リンパ球(ILC2)の機能を弱めることで、がん細胞の増殖を助けていることを発見したと発表した。この研究は、同研究所生命医科学研究センター免疫細胞システム研究チームの小安重夫チームリーダーら、ベルゲン大学生命医科学部ワーグナー マレック研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、オンライン科学雑誌「Cell Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

ILC2は、2010年に理研の茂呂和世チームリーダー、小安重夫チームリーダーらによって発見された新しいリンパ球で、寄生虫の感染やアレルギーといった2型免疫と呼ばれる免疫反応を司る。皮膚や粘膜など、体と外界とのバリアを形成する上皮細胞が、外界から危険シグナルを受け取ると、体内への警鐘としてサイトカインのインターロイキン-33(IL-33)が放出される。その結果、ILC2がIL-33に反応して大量の2型サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13など)を産生し、IL-5が好酸球による炎症反応を誘導することが明らかになっている。

近年、さまざまな自己免疫疾患や炎症性疾患において、ILC2が重要な役割を果たすことが報告されており、これまで未解明だった疾患発症機構を明らかにする新たな免疫機構として注目されている。しかし、がんにおいて、ILC2がどのように機能するかについては、よくわかっていない。

研究グループは、上皮細胞系の固形がんの患者において、好酸球増多が認められることから、ILC2ががん免疫に関与しているのではないかと考えた。がん細胞は、さまざまな方法で免疫の監視を免れて体内で増殖することがわかってきている。これまでに知られていない、ILC2の免疫監視を逃れるようながん細胞増殖の仕組みが存在するのではと研究グループは仮定、皮膚がんの一種である悪性黒色腫に着目し、がん周囲の環境とILC2との関係を調べた。

ILC2によるがん抑制活性、がん細胞によるILC2の機能阻害をマウスで確認

まず、ILC2の抗腫瘍活性を検討するために、悪性黒色腫を植えたマウスに3日ごとにIL-33を投与することで、ILC2を継続的に刺激しながら、がん細胞の増殖を観察した。その結果、がん組織の中へ多数の好酸球が浸潤し、がん細胞の増殖を劇的に抑制することがわかった。このことは、ILC2が悪性黒色腫に対して抗腫瘍活性を持つことを意味する。

一方、悪性黒色腫周囲の皮膚や脂肪組織を調べたところ、がん組織の周囲でILC2が減少していること、悪性度の高いがんであるほどILC2の減少が著しいことが判明。また、がん細胞をILC2と一緒に培養すると、がん細胞の塊の周囲でILC2の増殖や活性が低下したことから、がん細胞によってILC2の生存や機能が抑制される可能性が示された。

さらに、研究グループは、ILC2の活性低下ががん組織の産生する物質によって起こるのではないかと考え、がん細胞の代謝に注目。がん細胞では活発な細胞増殖に伴って、糖代謝に関わる糖輸送体や乳酸産生に必須な酵素が多く発現する。また、ワールブルグ効果として知られるように、がん細胞では糖代謝においてグルコースが解糖系から乳酸へ代謝され、がんの周囲には乳酸が蓄積して、がんの微小環境が酸性に傾くことが報告されている。

体内でがん細胞が産生する乳酸の影響を調べるため、RNA干渉法を用いて、乳酸の産生に必須な酵素の発現を低下させた悪性黒色腫の細胞(乳酸低下型がん細胞)を作製した。この乳酸低下型がん細胞と通常のがん細胞をマウスの体内で比較したところ、乳酸低下型がん細胞では、ILC2や好酸球が大量にがん組織内へ浸潤し、がん細胞の増殖が著しく抑制されることが明らかになった。一方で、乳酸産生を上昇させると、がん細胞の増殖が強まることもわかったという。

ヒトの悪性黒色腫でもILC2活性高の症例は生存率が高く、乳酸産生増でILC2が低下

最後に、悪性黒色腫の皮膚がん患者についても同様のメカニズムが存在するかどうか、がん細胞の発現データベースを用いて解析した。その結果、ヒトの悪性黒色腫でも同様に、IL-33と好酸球の発現が増大する、つまりILC2活性が高い症例では生存率が高いこと、乳酸産生が増加するとILC2や好酸球の動員が低下することが判明。また、肺扁平上皮がんや膵臓腺がんでは、生存率とIL-33や好酸球数との関係は見られなかったことから、がん種によってILC2の機能が異なることが示された。

ILC2によるがん抑制活性やがん細胞によるILC2の機能阻害を示した今回研究の成果は、将来、新たながん免疫治療の方向性に貢献すると期待できる、と研究グループは述べている。

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