103種類の認知課題群を用いて、ヒトの脳の定量的な情報表現モデルを構築
情報通信研究機構(NICT)は3月10日、103種類もの大規模な認知課題群を実施する際の脳活動を測定するfMRI実験を行い、認知機能と脳活動の関係を説明する定量的な情報表現モデルを構築し、認知情報が脳内でどのように表現されているかを示す脳内情報表現空間およびその全脳分布を示す情報表現マップを多様な認知機能について作成することに成功したと発表した。この研究は、NICT脳情報通信融合研究センター(CiNet)の中井智也研究員と西本伸志主任研究員によるもの。研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの日常生活は、見る、聞く、記憶する、想像する、判断するなどの多様な脳機能の複合で支えられている。しかし、これまでのヒトを対象とした脳研究は、数種類の知覚・認知課題を用意して脳活動を計測する研究がほとんどだったため、ヒトの日常をつかさどる複雑で多様な認知機能が、その総体としてどのように脳に表現されているのかは、明らかにされていなかった。
今回の研究では、被験者に3日間にわたって、見る、聞く、記憶する、想像する、判断するといった103種類の認知課題を実施してもらい、その際の脳活動をMRI装置で測定。さらに、測定した脳活動に対して2種類の情報表現モデルを構築して解析を行った。
個人の発達・加齢や個性に対応した、認知機能の比較定量手法の開発に期待
第1のモデルは、課題の各特徴量を1か0で離散的に表現した課題種類モデルであり、これを用いることで、103種類の課題それぞれに対する大脳各領域の寄与データを抽出することができる。さらに、得られた寄与データに対して主成分分析を実施し、103種類の課題の関係性を示す認知情報表現空間を可視化した。この空間上では、脳における表現が似ている課題ほど近い色で近くに配置されるようになっている。
また、大脳を約2mm角に分割した各領域について、その領域の寄与が大きい認知表現を、先述の認知情報表現空間を可視化したものと同じ色で表すことにより、認知表現と脳領域の関係を示す全脳認知情報表現マップを可視化した。可視化されたマップからは、例えば、後頭葉の視覚野などの大局的な機能構造のほか、従来の研究では明らかにされていなかった認知機能の細かい機能構造も見て取ることができる。
第2のモデルは、課題種類モデルによって得られた各課題に対する大脳各部位の寄与データと、過去の脳機能イメージング研究のデータベースを照合することにより、課題を高次元(715次元)の認知因子の空間で表現した認知因子モデル。このモデルは、認知課題を高次元の連続空間で表現することで、新規の認知課題に関する予測を可能にするものであり、これによって被験者が実施している新しい認知課題について脳活動から高い精度でデコーディング(解読)することなどに成功した。
今回の研究成果により、今後、対話や仮想現実空間での行動など、これまでの脳研究では検証が困難だった、より複雑な認知活動の基盤を明らかにすることが可能になったと考えられる。学習や発達・加齢による認知機能の脳内表現の変化や、さまざまな能力を持った人々の個人差の定量可視化等への応用が期待される。
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・情報通信研究機構 プレスリリース