「ヒトの形質とミトコンドリアゲノムとの関わり」に迫る
大阪大学は3月6日、バイオバンク・ジャパンにより収集された日本人集団2,000人の全ゲノム情報を用いてミトコンドリアゲノムの配列を詳細に決定し、配列の個人差を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の山本賢一大学院生(博士課程)、岡田随象教授(遺伝統計学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
細胞小器官「ミトコンドリア」は、太古の昔に真核生物の細胞に寄生した細菌に由来すると考えられており、細胞とともに進化し、酸化的リン酸化を通じて細胞にエネルギーを供給するという生体維持に重要な役割を担っている。ミトコンドリアは独自のゲノム(ミトコンドリアゲノム)を持ち、これには酸化的リン酸化に関する遺伝子が含まれている。広く研究されている核ゲノムと異なり、ミトコンドリアゲノムは変異が生じやすく、組換えがないという特徴があることがわかっている。母系遺伝により継承されることから、人類の起源や変遷、またその機能からいくつかの疾患や形質との関わりが調べられてきた。一方で、次世代シークエンサーを用いた包括的なミトコンドリアゲノムの解析や、非ヨーロッパ人集団におけるバイオバンクを活用したヒトの形質とミトコンドリアゲノムとの関わりはほとんど調べられていなかった。
日本人集団でミトコンドリアゲノム配列の多様性を可視化、病気や形質との関係が判明
今回、研究グループは、バイオバンク・ジャパンにより収集された日本人集団2,000人の全ゲノム情報からミトコンドリアゲノムの情報を取り出し、包括的な情報の解析を実施。共通祖先のグループを調べるハプログループの解析では、日本人集団に見られるハプログループの頻度分布が日本国内の地域によって異なることが判明した。また、ミトコンドリアゲノムの配列情報をもとに機械学習の手法を用いてサンプルを分類することで、日本人集団における遺伝的多様性を最適に説明するハプログループの組み合わせを可視化できることを示した。
今回の研究では、次世代シークエンサーによる詳細な多型情報を用いたため、ミトコンドリアゲノムと核ゲノムとの詳細な違いが明らかとなった。さらに、バイオバンク・ジャパンにより収集された日本人集団15万人のゲノムワイド関連解析データに含まれていた、部分的なミトコンドリアゲノムの配列情報と組み合わせることで、これらのサンプルにおけるミトコンドリアゲノムの配列をコンピューター上で推定することに成功(遺伝型インピュテーション)。その結果、99の形質と疾患の情報に対し、ミトコンドリアゲノムワイド関連解析を行い、筋逸脱酵素であるクレアチンキナーゼ(CK)、腎機能であるeGFR、肝逸脱酵素であるAST、自己免疫疾患の一種であるバセドウ病といった形質とミトコンドリアゲノム配列の個人差との関連が明らかになった。
今回の研究成果により、日本人集団に特徴的なミトコンドリアゲノムの配列が解明され、日本国内の地域によってハプログループの頻度分布に違いがあることがわかった。また、ミトコンドリアゲノムの配列の個人差といくつかの疾患や形質が関係することが判明した。研究グループは、「今後、ミトコンドリアゲノムと疾患との関わりの解明が加速することが期待される。一方で、ミトコンドリアゲノムに含まれる遺伝子変異の配列が、ヒトの形質に影響を与えている生物学的、医学的な意味は不明なままであり、更なる研究による解明が望まれる」と、述べている。
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