高齢者で発症頻度の高い悪性リンパ腫
筑波大学は2月28日、高齢者で発症頻度の高い悪性リンパ腫である血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)およびその他の濾胞性ヘルパーT細胞リンパ腫の治療薬として、他の血液がんに使用される薬剤ダサチニブが有望であることを示したと発表した。この研究は、同大医学医療系の千葉滋教授、坂田麻実子准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Research」誌に掲載されている。
血液のがんである悪性リンパ腫は、多数の亜型に分類される。それぞれの亜型ごとに病因や最適な治療法は異なると考えられており、また、亜型ごとに異なる遺伝子変異が明らかになりつつある。研究グループは2014年に、悪性リンパ腫の約3~5%に相当するAITLおよびその他の濾胞性ヘルパーT細胞リンパ腫の7割において、RHOA遺伝子から作られるタンパク質の1か所(17番目のアミノ酸)がグリシンからヴァリンに変異しており(G17V RHOA変異)、さらにエピゲノム調節に関わるTET2遺伝子に変異が生じていることを明らかにしている。
また、G17V変異によって生じた異常なタンパク質がT細胞受容体シグナルを伝達する分子VAV1と結合し、VAV1の異常な活性化(リン酸化)を起こすことでT細胞受容体シグナルを活性化させることや、すでに他の血液がんに使われている薬剤ダサチニブによって一連の反応を抑えられることを、2017年に明らかにしている。ダサチニブが濾胞性ヘルパーT細胞の性質を持つリンパ腫の治療薬として有望である可能性は示されていたが、実際の生体での効果は明らかになっていなかった。
画像はリリースより
マウス実験でダサチニブの効果を確認
今回の研究ではまず、AITLおよびその他の濾胞性ヘルパーT細胞リンパ腫のゲノム異常情報(G17V RHOA変異とTET2遺伝子変異)を模倣するマウス(Tet2-/- G17V RHOAマウス)を作製し、同疾患のモデルとなる腫瘍を発症することを示した。
続いて、Tet2-/- G17V RHOAマウスのリンパ腫組織から細胞懸濁液を調整し、免疫不全マウスに移植。この系では、移植後3~4週後に濾胞性ヘルパーT細胞リンパ腫を発症し、免疫不全マウスは死亡する。一方で、移植後14日目からダサチニブ5mg/kgを内服させると生存が延長した。また、脾臓のサイズや脾臓中のCD4陽性細胞の割合も低下していた。また、移植後9日目にダサチニブを内服させ、3時間後にVAV1リン酸化やこれのパートナー分子であるPLCγ1リン酸化の程度を調べたところ、ダサチニブ群ではコントロール群に比較してVAV1やPLCγ1リン酸化の程度は減少していたという。
ダサチニブ、AITL患者5人対象P1試験の結果、4人の部分寛解を達成
マウス実験での結果に基づき、AITL患者5人を対象にダサチニブの安全性を確かめるフェーズ1臨床研究を実施。ダサチニブは1日1回100mgの内服で、10~78日間(中央値58日間)継続された。安全性の検討では、1人でグレード3の末梢神経障害により投与を中止。この患者を含め、評価可能であった4人では部分寛解を達成した。
また、患者から得られた生検検体を用いて、434遺伝子領域に対する遺伝子変異解析を行った結果、それぞれ2つの異なるTET2遺伝子変異を4人由来の検体で認めた(症例1、2、4、5)。G17V RHOA変異は2人(症例3、4)由来の検体で、VAV1遺伝子変異を2人(症例2、5)由来の検体で認めた。症例5では、VAV1遺伝子領域のtandem duplication(縦列重複)も認めた。
今回の発見は、悪性リンパ腫に特異的なゲノム異常によって活性化する、異常なシグナルを遮断する治療が生体内でも有効であり、実際に安全に投与できることを示している。この結果を受けて、国内多施設共同でダサチニブの効果を調べる医師主導治験を開始。この臨床試験では、ゲノム異常のパターンや発現パターンなどから、ダサチニブが有効な患者群を抽出できるかも調べる計画だ、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・筑波大学 プレスリリース