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自閉症患者に生じるPOGZ遺伝子の突然変異が、病態と関連することを発見-阪大ほか

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2020年02月28日 PM12:00

自閉症の原因解明のカギを握る「

大阪大学は2月26日、自閉症患者から最も多くの突然変異が同定されているものの、その機能がほとんどわかっていないPogo transposable element with zinc finger domain()タンパク質が、脳の正常な発達に必要であることを発見したと発表した。これは、同大大学院歯学研究科の中澤敬信准教授、同薬学研究科の橋本均教授、国立精神・神経医療研究センターの橋本亮太部長らの研究グループによるもの。研究成果は、総合学術雑誌「Nature Communications」の電子版に掲載されている。


画像はリリースより

自閉症は、人口の約40人に1人が発症する非常に頻度の高い疾患だ。近年、その発症割合がますます増加傾向にあることから、自閉症克服のニーズが高まっている。また、根本的な治療法や中核症状に対する薬物療法が存在しないことから、原因や病態の分子メカニズムの解明と、分子メカニズムに基づく創薬が求められている。一方、自閉症は孤発症例が多いことなどから、健常者の両親には存在せず、患者(子ども)に生じる突然変異が疾患の要因の1つと考えられている。近年、健常者の両親と自閉症患者のサンプルを用いた大規模な全エキソンシークエンスが実施され、自閉症との関連性が示唆される遺伝子の突然変異が複数同定されている。患者に生じた突然変異と自閉症の発症との関連性を明らかにするためには、個々の突然変異に着目した詳細な生物学的な研究が必要だが、これまで個々の突然変異による遺伝子産物の機能異常や、その変異の個体に及ぼす影響を解析した報告例はほとんどなかった。

研究グループはこれまで、複数の研究室との共同研究で、POGZ遺伝子座等に自閉症と関連することが示唆される突然変異を同定してきた。POGZ遺伝子は、先述の全エキソンシークエンスでも突然変異が同定されており、患者に同定された突然変異数が最も多い遺伝子であることから、自閉症発症のリスクとなる可能性が強く示唆されている。しかし、POGZ遺伝子産物の脳における機能、POGZ遺伝子座の突然変異がPOGZの機能に与える影響や自閉症との関連性については未解明だった。

POGZの突然変異が、神経細胞の発達に異常を引き起こす

研究グループは今回、POGZのマウス脳における機能を解析することを目的として、POGZの発現時期や脳内での発現場所を調査。その結果、POGZは脳内で神経細胞の産生が盛んに起こる胎児期の胚齢14~18日にかけて高い発現を示すことがわかった。さらに、POGZは神経幹細胞が多く存在する大脳皮質の脳室帯付近に高い発現を示すことが判明した。これらの結果は、POGZが神経細胞の産生や発達に関与していることを示唆している。

そこで、神経細胞の発達過程におけるPOGZの機能を解明することを目的として、遺伝子ノックダウン法を用いて、POGZの脳内での発現量を低下させる実験を実施。胚齢14日のマウス胚において、POGZ遺伝子の発現量を下げることにより、同機能を低下させたところ、神経細胞が発達しつつ、大脳皮質の表層に移動する過程が阻害されることが明らかになった。また、POGZが遺伝子発現のネットワークを制御することによって、正常な神経細胞の発達に必須の役割を果たしていることを明らかにした。次に、同様の実験系を用いて、自閉症患者で同定されているPOGZの突然変異が神経細胞の発達にどのような影響を与えているかを調べたところ、POGZの突然変異により、神経細胞の発達に異常が引き起こされることが明らかになった。

中澤准教授らは過去に、自閉症患者からPOGZの1042番目のアミノ酸部位のグルタミンがアルギニンに置換している突然変異(Q1042R変異)をすでに同定している。今回、実際の患者由来の神経細胞を用いた研究を実施することを目的として、POGZのQ1042R変異を持つ日本人の患者の血液系細胞を用いて、)を樹立した。さらに、樹立した患者由来のiPS細胞を神経幹細胞と神経細胞に分化させたところ、健常者(両親)由来の細胞に比べ、患者(子ども)由来の神経幹細胞は、神経細胞へ分化する能力が低いことが判明した。この結果は、POGZの突然変異により、実際の患者神経細胞の発達に異常が生じ得ることを示しており、患者の脳内でも神経細胞の発達に遅れが見られることを示唆している。続けて、POGZの突然変異による神経細胞の発達異常が個体の脳機能へ与える影響を調べることを目的として、患者と同様のQ1042R変異をPOGZに導入したヒト型疾患モデルマウス(POGZ点変異マウス)を作製。POGZ点変異マウスでは、大脳皮質の厚さが薄く、神経細胞の発達に遅れが見られるとともに、通常のマウスに比べて頭が小さいことがわかった。これらの異常は、POGZに突然変異をもつ患者で小頭症を併発している症例が多く報告されていることに関連していると考えられた。

最後に、POGZの突然変異がマウスの行動に与える影響を解析したところ、POGZ点変異マウスでは、「マウスの社会性行動と考えられている同居マウスに興味を持つ時間が減少している」「コミュニケーション能力と考えられる仔マウスが母マウスを呼ぶために発するcall数(鳴き声)が増えてしまう」などの表現型が観察された。これらは、自閉症患者の社会性の低下や、特定のものに固執するといった症状に関連していると考えられる。また、POGZ点変異マウスの神経回路機能が異常に活性化していることから、神経回路の活性を抑えることにより、行動異常が回復する可能性が考えられた。実際、神経回路の異常な活性化を抑制するペランパネル(抗てんかん薬)の投与により、POGZ点変異マウスの自閉症と関連する行動異常が回復することが明らかになった。

POGZが制御する神経機能を標的とした新たな創薬への可能性に期待

今回の研究成果により、健常者(両親)にはなく、患者(子ども)に突然生じる変異が、自閉症の原因の1つであることが示唆された。今後、POGZ遺伝子の突然変異が神経細胞の発達異常につながる分子メカニズム、また、自閉症発症の原因となるメカニズムをさらに詳細に明らかにするための研究が重要となる。

研究グループは、「本研究によりPOGZの突然変異が誘発する神経回路の異常な活性化が自閉症のリスクになること、大人になった後でも薬物による治療が可能である可能性が明らかになったことから、POGZが制御する神経機能を標的とした自閉症の新たな創薬への道が開けたと言える。また、自閉症は、非常に多様な病態や病因が関わっていると考えられており、本研究成果は将来的に、自閉症の発症の分子メカニズムに基づいた疾患の細分類化およびテーラーメード医療に貢献することが期待される」と、述べている。

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