震災による心理状態への影響を、宮城県が同一対象者で5~6年追跡
東北大学は2月10日、宮城県内の応急仮設住宅入居の約3万世帯を対象に5~6年間の繰り返し測定の健康調査を実施した結果から、心理的苦痛を表すスコアは経年的に低下していたことが判明したと発表した。これは、同大大学院歯学研究科杉山賢明氏(非常勤講師)らの研究グループによるもの。研究成果は国際科学誌 「The British Journal of Psychiatry」に掲載されている。
震災経験は被災者の心理状態に負の影響を与える一方、この心理的苦痛は経年的に軽減してくると報告されている。その変化に影響する要因として、社会参加や相談相手の有無が関わると先行研究で示されてきた。しかし、こうした先行研究の追跡期間は2~3年間と短期間に止まっており、しかも、同一対象者を対象とすることや、マルチレベル分析を行った研究は稀だ。そこで、本研究では、宮城県の同調査に繰り返し全て回答した者を対象に、心理的苦痛に関わる要因を検証した。
配偶者や友人が相談相手であれば心理的苦痛はより低下
宮城県内35自治体で自記式質問票を郵送にて配布・回収。調査期間は、民間賃貸借上住宅で2011~2016年の全6回(n=1,084)、プレハブ住宅で2012~2016年の全5回(n=1,515)で、18歳以上を対象とした。心理的苦痛は、Kesslerの心理的苦痛測定指標(K6得点)を用いて、住居形態(民賃・プレハブ)、性、年齢、震災前後の活動量の変化、精神科疾患の既往歴、相談相手の有無、家族の喪失、家族の損壊との関連を検証した。
民間賃貸借上住宅・プレハブ住宅別に分析した結果、ともに K6得点は経年的に低下していた。また、相談相手がいる者で K6得点が有意に低下していた。一方、女性、精神科疾患の既往歴のある者や、活動量が震災前と比べて低下した者で K6得点は有意に高くなった。加えて、追加分析では、配偶者および友人が相談相手であることがより強くK6得点の低下に影響していた。
「震災から6年間追跡した調査を、より高度な統計学的手法を用いて分析した点で本研究の意義は大きいと考える。また、相談者による支援は、震災後に行うことのできるさまざまな支援の中で、より実現可能性が高く、柔軟かつ迅速である。こうした共助ともいえるコミュニティレベルの継続的な支援が、長期間において必要であることが示唆された」と、研究グループは述べている。
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