mPFCでのNA遊離は薬物欲求の増大に関与しているのか?
金沢大学は2月6日、ストレスによってなぜコカインに対する欲求が増大するのかを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域薬学系の金田勝幸教授らの研究グループが、京都大学大学院薬学研究科の金子周司教授、名古屋大学環境医学研究所の山中章弘教授、北海道大学大学院薬学研究院の南雅文教授との共同研究として行ったもの。研究成果は、国際学術雑誌「Neuropharmacology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
麻薬や覚醒剤などに対する薬物依存症では、一旦薬物を止めても、再び摂取してしまうという再燃が、治療を困難にしている。再燃はさまざまな引き金によって引き起こされるが、その重要な要因の1つとしてストレスが挙げられる。ストレスは日常生活の中で避けることが難しいため、ストレスによって脳内のどこでどのような変化が生じ、再燃に至るのかを明らかにできれば、再燃を防ぐ手立てを考えられるようになる。
脳内の神経伝達物質の1つであるノルアドレナリン(NA)は、ストレスホルモンとも呼ばれ、ストレスが負荷されると青斑核という脳部位の活性化により放出されることが知られている。薬物欲求の情報処理に関与する内側前頭前野 (mPFC)においても、ストレス負荷時にはNAレベルが上昇することが報告されている。これらの知見から、mPFCでのNA遊離がストレスによる再燃、つまり、薬物欲求増大に関与している可能性が考えられる。しかし、NAがmPFCでどのように作用するのか、また、実際に薬物欲求の増大に関与しているのかは不明だった。
ストレス<NA遊離<mPFCが過剰に興奮<コカイン欲求増大
今回、研究グループは、マウスの脳スライス標本を用いた電気生理学実験とマウス個体を用いた行動実験により、mPFCでのNAの作用とストレスによるコカイン欲求増大に対するNAの関与を検討した。
他の脳領域へ影響を与えるmPFC V層錐体神経細胞に着目し、マウスの脳スライス標本でのホールセルパッチクランプ記録法を用いてNAの作用を調べたところ、NAにより、mPFC V層錐体神経細胞への興奮性神経伝達が増強し、神経細胞の活動が上昇するとともに、これらの作用はNAのα1受容体を介して発現することが判明。この結果を踏まえ、次に、ストレスを負荷することでコカインに対する欲求を強くしたマウスのmPFCにα1受容体を遮断する薬物を局所投与したところ、コカイン欲求の増大が抑制されることがわかった。つまり、ストレスにより遊離の増大したNAがmPFCの神経細胞活動を上昇させ、ストレスによるコカイン欲求の増大を引き起こしていることが明らかになった。
研究グループは、「これまで不明であったストレスによる薬物欲求増大の神経メカニズムが明らかになったことで、薬物依存症の治療において重要な問題となる再燃に対する予防法や治療法の開発につながることが期待される」と、述べている。
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