「ネットに友達がいる」など、ひきこもり者である自覚を持たない人も
九州大学は2月4日、国際的に通用する病的な「ひきこもり(hikikomori: pathological social withdrawal)」の診断評価基準を新たに開発したことを発表した。これは、九州大学病院精神科神経科の加藤隆弘講師、神庭重信名誉教授(精神医学)、米国オレゴン健康科学大学のアラン・テオ准教授(精神医学)らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術雑誌「World Psychiatry」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
一般的に「社会的ひきこもり(以下、ひきこもり)」とは、6か月以上にわたり、就労・学業など社会参加を回避し、自宅に留まっている現象のことを指す。うつ病や統合失調症など精神疾患の併存も珍しくないが、精神疾患の症状によってひきこもる場合は「ひきこもり」に含まないという意見もあり、「ひきこもり」の定義に精神疾患を含むか否かは以前から議論されていた。
2010年に厚生労働省より発行された「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」の定義の中には、「原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである」と記載されている。また、ひきこもり者の回避状態を評価することは容易ではなく、「することがないから家にいるだけで、人を避けているわけではない」「直接人と会うことはないけど、ネットでは友達がたくさんいる」と訴えて支援を求めないケースもまれではない。他方、最近では海外でもひきこもりに類する現象が多くの国で報告されており、国際的に通用する「ひきこもり」の評価基準が求められている。
一人ひとりの状態評価に基づく適切な支援が提供しやすく
今回、同研究グループは、これまでの問題点を整理し、国際的に通用する病的な「ひきこもり(hikikomori: pathological social withdrawal)」の診断評価基準を新たに開発。今回の定義では、物理的撤退を必須条件とし、それ以外を補足項目とし、回避や併存疾患の有無を問わないとすることで、これまでの混乱の解決を図った。定義の要点は以下の通り。
「病的な社会的回避または社会的孤立の状態であり、大前提として自宅に居留まり、物理的に孤立している状況である。こうした状況に対して本人が苦悩しているか、機能障害があるか、あるいは、家族・周囲が苦悩しているということが必須項目である。6か月以上を病的な「ひきこもり(hikikomori)」とし、3か月以上6か月未満を「前ひきこもり(pre-hikikomori)」とする。外出頻度が週2~3回を軽度、週1回以下を中等度、週1回以下で、かつ自室からほとんど出ない場合を重度とする。必須項目ではないが、孤独感の有無、社会的参加の欠如、直接的な対人交流の欠如、間接的な対人交流の有無、および併存症の有無の評価は重要である。」
今回の基準により、支援が必要なひきこもり状態にあるか否かを周囲の観察により、スムーズに判断できるようになる。さらに、本人に対して補足項目まで評価することで、一人ひとりの状態評価に基づく適切な支援を提供しやすくなることが期待される。
研究グループは「今回の基準が、海外にひろがりつつある若者のひきこもり様の現象や世界的問題である社会的孤立を把握するための国際疫学調査に活用されることで、ひきこもり国際化の実態把握に貢献することが期待される。さらに、今回新たに「前ひきこもり」状態を評価基準に加えたことで、ひきこもりの予防や早期支援に向けた新しい支援体制の構築が期待される」と、述べている。
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・九州大学 研究成果