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アスタキサンチンで骨格筋の質が向上、糖尿病を改善する可能性-富山大

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2020年02月05日 PM12:15

インスリン抵抗性の改善作用を示すアスタキサンチン

富山大学は1月30日、肥満などで生じるインスリン抵抗性に対し、海産物に含まれるカロテノイド色素であるアスタキサンチンが、骨格筋のAMPKと呼ばれる分子を介して、ミトコンドリア機能の改善を促し、骨格筋を脂質代謝により適した遅筋(赤筋)に変化させることにより、血糖値や脂質代謝異常を改善させることを発見したと発表した。これは、同大大学院医学薬学研究部(医学)内科学講座1の戸邉一之教授、アラー・ナワズ研究員、西田康宏協力研究員(富士化学工業株式会社)らの研究グループによるもの。研究成果は「The Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に掲載されている。

肥満は2型糖尿病や高血圧症、脂質異常症など、メタボリック症候群の基盤であり、将来の脳卒中、心筋梗塞、悪性腫瘍や認知症などの大きなリスクとなる。また、インスリン抵抗性などエネルギー代謝異常を示すことも知られており、肥満によるインスリン抵抗性の進行を予防することは、生活習慣病を予防し、国民の生活の質を大きく向上させることが期待される。一般に肥満の予防に有効な手段として、過食を避ける、運動でエネルギーを消費する、基礎代謝を高めてエネルギーを燃やすなどの方法がある。最初の2つは個人の生活習慣改善によるものであるが、現代人の多忙な社会・生活環境では実践が困難であることも少なくないというのが現状だ。


画像はリリースより

エビ、カニなどの甲殻類や鮭や鯛など魚類を含む水産物に多く含まれるアスタキサンチンは強い抗酸化活性を有し、現在、美容・アンチエイジングの機能性食品として応用されている。アスタキサンチンは、これまでにも肥満モデルマウスにおけるインスリン抵抗性の改善作用を示すことが報告されていたが、その作用機序は抗酸化活性による組織の酸化ストレスによる機能障害からの保護作用によるものと考えられてきた。

AMPKはAMP活性化プロテインキナーゼと呼ばれるタンパク質で、細胞内のエネルギーセンサーの役割を担っている。AMPKの活性化による代謝改善効果は、糖尿病治療薬として広く利用されているビグアナイド系の医薬品であるメトホルミンで知られているが、その作用は肝臓が主たる作用組織である。また、それらは保険医薬品であり、一般的に予防目的では使用されていない。AMPKの活性化は有酸素運動による糖代謝改善のメカニズムと類似しており、アスタキサンチンは骨格筋においてAMPKを介した運動模倣薬的な作用をしていると推察される。

骨格筋におけるアスタキサンチンのAMPKを介した運動模倣薬的な作用を研究

研究グループは今回、同メカニズムを明らかにすべく、検討を行った。その結果、アスタキサンチンを摂取した肥満モデルマウスでは、後肢の腓腹筋において、ミトコンドリアによるエネルギー代謝に関わる表現型の遺伝子発現が亢進しており、筋線維もミトコンドリアが多く、持久力を持つ遅筋(赤筋)型の遺伝子発現パターンに変化していることがわかった。酸化ストレスにあまりさらされない条件にある非肥満マウスや骨培養骨格筋細胞(C2C12細胞)においても、アスタキサンチンは、ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝に関わる遺伝子発現が亢進していた。これらのことから、アスタキサンチンが抗酸化活性に依らない何らかの作用でミトコンドリア代謝改善作用を示していることが示唆された。

さらに作用機序を探索したところ、ミトコンドリア関連の転写因子に関連する分子(サーチュイン、PGC-1α、PPAR-α、ERRα、γ)の遺伝子発現が亢進していた。この中でもPGC-1αの遺伝子発現では、運動によるAMPK活性化で発現が上昇するアイソフォームの遺伝子発現が亢進していた。そのため、AMPKがアスタキサンチンのミトコンドリア代謝亢進作用に関与すると考え、AMPKのサブユニットであるAMPKα1/2をsiRNAでノックダウンしたC2C12細胞を用いて評価したところ、AMPK活性化薬の1種であるAICAR(5-Aminoimidazole-4-carboxamide ribonucleotide)と同様に、添加により誘導されるPGC-1αアイソフォームの遺伝子発現誘導が低下したことから、アスタキサンチンの標的としてAMPKを介した経路を活性化することにより、ミトコンドリア代謝が亢進していることが判明した。通常食マウスにおいてもミトコンドリア関連遺伝子の発現亢進に伴い、血管新生や骨格筋の遅筋線維の遺伝子発現も亢進しており、骨格筋が肥満時の脂質代謝により適した遅筋化することが示唆された。

日常的なアスタキサンチンの摂取でメタボリック症候群や糖尿病を予防できる可能性

同時に肥満モデルマウスでは、脂肪組織での炎症性サイトカインに関連する遺伝子発現が減少しており、この作用は、脂肪組織での過酸化物質を示すTBARSが低下していたことから、これまで考えられているように、酸化ストレスを脂肪組織では低下させることも作用機序の一端を担っていると考えられた。

また、一般的に抗酸化物質はメタボリック症候群のような酸化的環境下では有益な作用を示すと考えられるが、近年では、特定の抗酸化物質の過剰摂取により、日常的な運動トレーニングによる耐糖能改善作用を妨害することが報告されている。この作用は、骨格筋において活性酸素による生理的な正の作用であるAMPKの活性化を抗酸化物質が妨害するためだ。アスタキサンチンでは、培養骨格筋細胞(C2C12細胞)において、活性酸素である過酸化水素によるAMPKの活性化(リン酸化)を代表的な抗酸化剤であるN-アセチルシステインとは異なり、阻害せず、肥満モデルマウスにおいてもトレッドミルによる運動トレーニング後の糖負荷試験で、運動と相加的な作用を示した。これらの結果を総合すると、アスタキサンチンは単純な抗酸化物質としての作用だけではなく、それとは独立した特徴的な代謝改善作用を示すことが考えられる。

今回の研究の成果から、アスタキサンチンの日常的な摂取により、骨格筋においてインスリン抵抗性が改善し、メタボリック症候群や糖尿病の発症や進展を予防することが期待される。研究グループは「アスタキサンチンのAMPKの活性化に関する分子作用機序は明らかでないためその機序を解明し、作用機序に基づいた新奇で安全な骨格筋AMPK活性薬の創薬につなげたい」と、述べている。

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