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「軽めのジョギング」は脳機能の調節・維持において重要な役割-NRCPDほか

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2020年02月04日 PM12:00

適度な運動の「適度」の程度、それによる実質的な効果は?

国立障害者リハビリテーションセンター(NRCPD)は2月3日、ジョギングやウォーキングによる効果について検証し、足の着地時に頭部に伝わる適度な衝撃が、脳機能の維持・調整に関係していることを分子の仕組みと共に解明したと発表した。これは、同センター運動機能系障害研究部分子病態研究室と東京大学などの共同研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「iScience」に掲載されている。

健康寿命の延伸は全世界的に喫緊の課題となっている。ほとんどの加齢性の疾患・障害や生活習慣病において、「適度な運動」が有効であることは統計的に証明されている。しかし、適度な運動の「適度」はきちんと定義されていないのが実状だ。それどころか、運動の何が身体の好影響を与えるかすらほとんど不明である。例えば、有酸素運動が有効といわれているが、「本当に有酸素が重要なのか」ということについては明らかにされていない。エアロビクスなど、有酸素運動には上下動(飛ぶ、あるいは、飛び跳ねる)を伴うものもあり、本当はその上下動が重要である可能性も考えられる。

また、骨・関節など運動器官の障害により運動したくても運動できない場合は、運動による健康維持効果を享受できないので、さらなる身体機能低下を負うことになる。加齢に伴う身体不活動や、肢体不自由障害による身体運動の不足・制限によって、筋萎縮・糖代謝障害(糖尿病)・心血管障害などの二次障害が起こるにもかかわらず、有効で副作用の少ない治療法が確立されていないことは大きな問題である。そこで、研究グループは、運動による脳機能調節効果における運動の本質の少なくとも一部が、運動時(具体的には足の着地時)に頭部に加わる力(衝撃)であることを明らかにし、その衝撃で生じる脳内の組織液の流動による神経細胞の機能変化を個体レベルおよび分子・細胞レベルで検証した。

軽めのジョギング中、足の着地時に脳は衝撃を受けている

画像はリリースより

研究グループはまず、「適度な運動量」による脳への影響を検討。ラットの頭部に加速度計を設置し、「ラットにとって適度な運動」となることが報告されている分速20mの走行をさせた。すると、前足の着地時、頭部で約1Gの上下方向の衝撃が検出された。また、マウスの分速10m走行、ヒトの時速7km走行時にも、足の着地時に約1Gの衝撃が頭部に加わることを確認した。

続いて、麻酔下でマウスの頭部を上下動し1Gの上下方向の衝撃を頭部に1日30分与える行為と、マウスで1日30分間・分速10mの走行する行為、それぞれを1 週間継続する実験を行った。これにより、前頭前皮質におけるセロトニン誘導性の幻覚反応とされる痙攣現象が抑制された。いずれの行為も、前頭前皮質の神経細胞におけるセロトニン2A受容体の分布を細胞表面から細胞内へと変化(内在化)させることに影響したことがわかった。さらに、造影MRIでマウスの前頭前皮質内の組織液の流れを検討したところ、1Gの上下方向の衝撃を頭部に与える受動的頭部上下動により、脳内組織液が秒速約1μで流動することがわかった。

脳への適度な衝撃は、脳内細胞の機能調節に影響

また、頭部に適度な衝撃を与えた時に生じる脳内組織液の流動により神経細胞に加わる力を培養細胞で再現したところ、2A受容体が内在化し、セロトニンに対する応答性が低下。前頭前皮質にハイドロゲルを導入したマウスでは、受動的頭部上下動による前頭前皮質のセロトニン誘導性幻覚反応抑制と神経細胞におけるセロトニン 2A 受容体内在化の効果が消失していた。これは、受動的頭部上下動の効果が組織液の流動を介していることを示すもの。

今回の研究から、「運動→頭部に適度な衝撃→脳内間質液流動→脳内の細胞に力学的刺激→脳内の細胞の機能調節」という分子の仕組みが、運動による脳機能調節に広く関与していることが考えられる。さらには、どんな運動を1日どのくらい、1週間に何日行えば、健康維持になるのかといった健康寿命延伸へ向けた重要な問題の解決にもつながるもの。「今回の研究は、間質液の動きを促進することが脳機能維持法としての運動の本質の少なくとも一部であり、「運動ってなんだ?」という問いへの答えにつながると共に、運動したくても運動できない障害を持つ者にも適用可能な擬似運動治療法の開発につながる可能性が見い出せた」と、研究グループは述べている。

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