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進行卵巣がんの悪性化メカニズムを解明、化学療法抵抗性の原因を明らかに-名大ほか

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2020年02月03日 AM11:30

卵巣がんの接着・増殖を促進する腹膜中皮細胞(OCAM)

名古屋大学は1月29日、進行卵巣がんの悪性化に関わるメカニズムを解明し、腹膜環境から新たな化学療法に対する抵抗性の原因を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科産婦人科学の吉原雅人大学院生、梶山広明准教授、吉川史隆教授、同大ベルリサーチセンター協同研究講座の那波明宏特任教授、国立がん研究センター研究所の山本雄介主任研究員、アデレード大学のCarmela Ricciardelli(カルメラ リチャーデリ)博士らの研究グループによるもの。研究成果は、国際医学総合誌「International Journal of Cancer」(電子版)に掲載されている。

卵巣がんは婦人科領域における予後不良ながんのひとつ。多くの症例において、腹膜播種という、腹膜の壁全体に多発性の微小な転移を伴う特徴的な進行の形を示す。腹膜播種は、プラチナ製剤を中心とした化学療法を含む初回治療への反応性は比較的良好だが、その後、高い確率で腹腔内に再発性の腫瘍が出現し、さらに化学療法への抵抗性を獲得することで、難治性がんへと変化していく。こうした化学療法への抵抗性を獲得するメカニズムに関しては、これまでにいくつかの報告があるものの、依然として不明な点が多く、新たなメカニズムの解明や新規治療標的の探究が求められている。

研究グループは、卵巣がんの腹膜播種におけるがん細胞の生存を支える「土壌」、すなわち環境としての腹膜に着目し、腹膜の特徴的な構成要素として腹膜中皮細胞(OCAM)に焦点を当てて研究を進めてきた。その結果、これまでに、卵巣がん細胞から放出される液性因子のひとつであるTGF-β1により、卵巣がんに協力的で、卵巣がんに関連するOCAMが出現し、卵巣がんの接着および増殖を促進することを明らかにしている。

一方で、腹膜播種という腫瘍が構築する微小環境においてOCAMがどのように進展し、また、卵巣がんの化学療法への抵抗性の獲得に対してどのように関与するのかは明らかになっていなかった。今回の研究では、OCAMが卵巣がん細胞と共に腹膜播種という微小環境を構成するための環境構築を行い、さらに、卵巣がん細胞のプラチナ製剤への抵抗性の獲得に関与する可能性を新たに検討した。


画像はリリースより

OCAMが卵巣がん細胞のAktシグナルを活性化させ、プラチナ製剤への耐性を誘導する可能性

研究グループは、卵巣がんの腹膜播種の組織において、中皮細胞の標識マーカーのひとつであるcalretininという分子(陽性の細胞)が、腹膜の表面の単層上皮層から腫瘍の微小環境内へと連続して存在することを確認。これらの変化は、主に卵巣がんから放出される液性因子であるTGF-β1により誘導されるOCAMの間葉転換に基づくことを示し、研究グループは、これらの細胞を卵巣がんに関連するOCAMと定義した。

続いて、TGF-β1刺激後のOCAMを用いて卵巣がん細胞株との共培養を行ったところ、対照と比較して、明らかににシスプラチンへの抵抗性が増強していることが判明。RNAマイクロアレイにより、網羅的にメカニズムの探索を行った結果、卵巣がん細胞内のAktシグナル活性化が、プラチナ製剤への抵抗性を獲得する原因と同定された。さらに、上流のシグナルを網羅的にプロテオーム解析して調査した結果、TGF-β1の刺激により、OCAM上に強発現したフィブロネクチンが卵巣がん細胞のAktシグナル活性を生み出す候補として浮上。siRNAを用いて、TGF-β1刺激を行ったOCAM上のフィブロネクチンを減少させると、共培養実験において卵巣がん細胞のAktシグナル活性は低下し、プラチナ製剤への抵抗性が改善することが判明した。一方、TGF-β1刺激により、マウスの腹膜上にもフィブロネクチンの発現が増えることを同定。腹膜播種のモデルとして卵巣がん細胞を腹腔内に注入したところ、TGF-β1前投与を行ったグループでの腹膜に生着した卵巣がん細胞において、Aktシグナル活性の亢進を確認した。これらの結果から、がんに関連するOCAMは、フィブロネクチンを介して卵巣がん細胞のAktシグナルを活性化させることで、プラチナ製剤への耐性を誘導する可能性をもつことが明らかとなった。

今回の研究により、腹膜播種の微小環境における卵巣がんに関連するOCAMと卵巣がん細胞の相互関係が、腫瘍の進展を促進し、一部のプラチナ製剤への抵抗性の原因になっている可能性が明らかになった。したがって、これらのメカニズムの外因的要因である環境としてのOCAMを治療の標的とすることは、腹膜播種を伴う進行卵巣がんにおける新たな治療戦略になると考える、と研究グループは述べている。

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