脳梗塞の再発を抑えるための抗凝固薬、内服開始の最適なタイミングを検討
国立循環器病研究センターは1月31日、心房細動を有する脳梗塞患者に対する発症早期の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の有用性と安全性を詳細に検討し、脳梗塞の重症度に注意すれば、脳梗塞発症から数日以内にDOACを開始してもよいと考えられることが判明したと発表した。この研究は、同センター溝口忠孝脳血管内科医師、田中寛大脳卒中集中治療科医師、吉村壮平脳血管内科医長、古賀政利脳血管内科部長、豊田一則副院長らの研究チームによるもの。研究成果は「Stroke」に掲載されている。
画像はリリースより
心房細動があると、心臓の中に血栓が形成され、その血栓が脳に飛散することがある。そのため、心房細動があると脳梗塞を発症しやすくなる。脳梗塞患者で心房細動があると、脳梗塞の再発を抑えるため抗凝固薬を内服する。抗凝固薬としては、従来から使用されている「ワルファリン」に加えて、2011年以降に国内では「ダビガトラン」「リバーロキサバン」「アピキサバン」「エドキサバン」の直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant: DOAC)が承認され、現在では多くの患者に使用されている。
脳梗塞発症から数日間は脳梗塞再発が多い一方で、脳梗塞巣からの出血も起こりやすい。DOACは塞栓症の予防効果はワルファリンと同等であり、加えてワルファリンに比べて頭蓋内出血が少ないという利点がある。そこで研究グループは、心房細動を有する脳梗塞患者についての国内18施設の多施設共同前向き研究(以下、SAMURAI-NVAF研究)に登録されたデータを使用し、脳梗塞発症早期のDOAC開始について、有用性と安全性を評価した。
脳梗塞の重症度を考慮した上での早期DOAC服薬開始は可能
SAMURAI-NVAF研究に登録された、非弁膜症性心房細動を有する脳梗塞患者1,192人のうち、DOACを開始した499人を対象とした。DOAC内服の開始タイミングの中央値は発症後4日。対象者を、発症から3日以内にDOACを開始した早期群と、4日以降に内服を開始した後期群の2群に分類して2年間追跡し、脳卒中や全身塞栓症、出血合併症の頻度に違いがあるかどうか評価した。
解析の結果、早期群と後期群の間では、脳卒中や全身塞栓症、出血合併症の頻度は同等であることがわかった。DOACを開始した日数は、一過性脳虚血発作患者の中央値が3日、小梗塞・中梗塞の患者は4日、大梗塞の患者は7日であった。梗塞巣が大きくなるにつれて開始している日数は遅くなっている。これらの結果から、重篤でない脳梗塞患者で、塞栓症を発症する危険性が高い場合には、DOACの開始を遅らせる必要はないと考えられる。
現在、米国、欧州ではDOAC開始の最適なタイミングを明らかにするための多施設共同無作為化比較試験が複数実施されている。その中の1つであるELAN(Early versus Late initiation of direct oral Anticoagulants in post-ischaemic stroke patients with atrial fibrillatioN)試験(スイス ベルン大学主催)に、同センターからも参加する予定。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース