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生活道路での30km/h以下規制が自転車・歩行者の事故を予防する可能性-筑波大

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2020年01月28日 AM11:00

前回失敗した経験から「30km/h以下の最高制限速度」のみを必須に

筑波大学は1月24日、2011年9月から全国の生活道路で指定が進んでいる「ゾーン30」(最高速度30km/h以下の区域規制)導入後、生活道路における交通外傷が減少し、2011年9月~2016年12月までに1,704人の自転車と歩行者の死亡・重傷が予防されたと推定したことを発表した。これは、同大医学医療系の市川政雄教授らの研究グループによるもの。研究成果は「American Journal of Public Health」にオンライン掲載されている。

世界中で年間130万人が交通事故で亡くなっていると推計されている。そのうち4分の1が自転車と歩行者であることから、これらの安全を確保することは、事故による死傷者を減らすだけでなく、身体活動を伴う交通手段を促進することで生活習慣病を予防したり、化石燃料の消費を減らしたりするなどのメリットもあるとされている。

自転車や歩行者の安全を確保する取り組みの1つとして、区域(ゾーン)内の交通静穏化がある。これは、自動車通行よりも徒歩や自転車が優先されるべき生活道路で、自動車の最高制限速度を概ね30km/h以下にするとともに、必要に応じて道路に凸部(ハンプ)や狭さく部・屈曲部を設けるといった物理的デバイスの設置や、交通規制等の対策を組み合わせたもの。この交通静穏化には、ゾーン内の交通外傷を減らす効果があることが、これまでの研究で確認されている。

先進国の中で日本は、交通死者のうち自転車・歩行者が占める割合が特に高く、1970~2000年代にかけて、生活道路における交通静穏化の取り組みが行われてきた。しかし、「最高速度制限が30km/hよりも速い」「ゾーン設定の要件が厳しい・予算不足・住民の理解が得られない」などの理由で広まらず、十分な成果を挙げることができなかった。そのため、2011年9月から警察庁が中心となり、新たに「ゾーン30」の取り組みが開始された。これは、従来よりもゾーン設定の要件を緩和し、30km/h以下の最高制限速度のみを必須とするとともに、国土交通省、道路管理者(都道府県、市区町村)、都道府県警、地域住民との連携を強化したもので、2017年3月までに全国で3,105か所のゾーンが設定された。今回の研究は、このように要件の緩和されたゾーンの導入による自転車と歩行者の交通死亡・外傷の低減効果を、国レベルで明らかにすることを目的として行われた。

生活道路における死亡・重傷の5.5%が予防されたと推定

研究グループは、公益財団法人交通事故総合分析センターから得た2005年1月~2016年12月の月ごとの全国の交通外傷データ(死亡を含む)を分析。このデータは、事故が起こった道路の幅(5.5m未満および5.5m以上)、死者または受傷者の性・年齢層・交通手段(、徒歩)および重傷度(死亡、重傷)で層別し、外傷数を集計したもの。幅5.5m未満の道路がゾーン30の対象となり得る生活道路であるため、この狭い道路における人口当たりの外傷率が、ゾーン30が導入された2011年9月以降にどの程度変化したか、それ以外の道路における外傷率の推移を統計的に調整した上で、分断時系列解析という手法を用いて分析した。さらに、その分析結果を用いて、ゾーン30の導入により予防されたと推定される死亡・重傷者数を計算した。

その結果、ゾーン30の対象となる生活道路における人口当たりの自転車と歩行者の交通外傷率が、2016年12月時点で4.6~26%(性・年齢層により異なる)低下していた。また、2011年9月~2016年12月までの間に、全国で1,704人(95%信頼区間:1,293, 2,198)の自転車と歩行者の死亡・重傷が予防されたと推定された。同期間に報告された生活道路における死亡・重傷の人数は29,434人で、5.5%が予防されたことになるという。しかし、死亡事故に限った分析では、ゾーン30の導入による差は見られなかった。このことから、自転車や歩行者の交通外傷予防のためには、最高速度30km/h以下のみを要件とする比較的設定しやすいゾーンを、行政や地域が協力して広めることが有効だと言える。さらに、同研究成果は、健康や環境の観点から、徒歩や自転車といった身体活動を伴う交通手段の利用を促進するという、国際的な潮流を後押しするものであり、日本のみならず他国の交通政策にも参考になると考えられる。

今回の研究では、死亡と重傷を合わせた分析で、ゾーン30の効果が見られたが、死亡に限定した場合には効果が見られなかったことから、各ゾーン内での死亡事故の発生状況や予防策の有無などについても検討する必要がある。さらに、ゾーン30の死亡・重傷予防に対する費用対効果も検討することが望まれる。

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