医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 人類の適応進化、日本人はお酒、欧米人はパンが深く関与-阪大ほか

人類の適応進化、日本人はお酒、欧米人はパンが深く関与-阪大ほか

読了時間:約 2分57秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年01月23日 AM11:45

17万人のヒトゲノム情報から29の遺伝子領域を同定

大阪大学は1月20日、バイオバンク・ジャパンにより収集された日本人集団17万人を対象にした大規模ヒトゲノム情報解析により、日本人集団の適応進化に関わる29の遺伝子領域を同定し、また、UKバイオバンクにより収集されたデータの解析により、日本人集団と欧米人集団で適応進化の対象になった形質が異なることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科の岡田随象教授(遺伝統計学)らの研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Molecular Biology and Evolution」に掲載されている。


画像はリリースより

生物の性質が、周囲の環境に対応して世代を経るごとに変化する現象を「」と呼ぶ。適応進化の過程では、ゲノム配列に変化が生じる。そのため、特定のヒト集団におけるゲノム配列の多様性についてどのように変化してきたかを調べることにより、その集団において、ゲノム配列上のどの遺伝子領域が、どういった環境の変化に対応して適応進化してきたかを知ることができる。

ヒト集団の適応進化の過程は、各集団における地理的条件や生活環境に応じて世界各地で異なることが知られている。研究グループは以前、日本人集団2,000名のゲノムデータの解析を行い、日本人集団の適応進化に関わる4か所の遺伝子領域を同定した。その中で、日本人集団の適応進化にアルコール代謝が関わり、お酒に弱くなる方向に進化してきたことを報告していた。現在、世界各国で10万人以上を対象にした大規模バイオバンク事業が行われており、これらの大規模なヒトゲノム情報を活用することで、より詳細な適応進化の解明が可能になると期待されていた。

今回、研究グループは、バイオバンク・ジャパンにより収集された日本人集団17万人のヒトゲノム情報を対象に、適応進化の解析を行った。ヒトゲノム上の各ゲノム領域内に含まれる複数の遺伝子変異の共通祖先の系譜を高速に探索する遺伝統計解析手法「ASMC」を採用したことで、大規模ヒトゲノム情報を対象にした適応進化の解析を、ヒトゲノム全域に渡って行うことが可能になった。その結果、過去1~2万年において日本人集団の適応進化の対象になっていた29の遺伝子領域を同定することに成功した。特に、アルコール代謝に関わるADH1B遺伝子領域において最も強い適応進化の影響が認められ、日本人集団における適応進化の鍵となる遺伝子領域であると考えられた。

日本人集団はアルコール摂取量・腎機能・肥満・免疫疾患が適応進化の対象

さらに、日本人集団の適応進化に影響を与えた形質について調べた。これまでに日本人集団を対象にした大規模ゲノム研究で報告されている、病気の発症や臨床検査値、食生活習慣など100以上の形質において個人差に影響を与える遺伝子変異を解析し、適応進化の強さを網羅的に検討した。その結果、飲酒量や飲酒歴などのアルコール摂取量に加え、腎機能(血清クレアチニン値、eGFR)・肥満および閉経年齢・脂質(HDL-コレステロール)・免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、乾癬)等が、日本人集団の適応進化の主な対象であったことが明らかになった。

欧米人集団はパン摂取量・握力・歩く速さ・背骨の関節炎が適応進化の対象

並行して、イギリスのUKバイオバンクにより収集された11万人のヒトゲノム情報を対象に適応進化の解析を行い、600以上の多彩な形質を対象に適応進化の強さを検討した。その結果、欧米人集団では、パンやシリアルの摂取量、握力・歩く速さ・身長といった身体計測値、背骨の関節炎を生じる疾患(脊椎症・強直性脊椎炎・乾癬)等が適応進化の主な対象と判明した。これは、世界各地の集団が独自の適応進化を遂げてきたことだけでなく、お酒やパンといった食生活習慣が人類の適応進化に深く関わっていることを示す結果と考えられた。

今回採用した遺伝統計解析手法ASMCは、各遺伝子領域における適応進化の強さを議論できるものの、その方向性については議論することができない。同定した適応進化に関わる形質が、各集団における生存に有利・不利のどちらに働いていたのかは、既知の一部の形質(例:日本人集団はお酒に弱くなる方向に進化、欧米人集団は背が高くなる方向に進化)を除いて不明のままだ。今後、お酒やパンといった食生活習慣が、どのように日本人集団や欧米人集団の適応進化に関わってきたのか、更なる研究による解明が望まれる。また、今回の研究成果は、バイオバンク規模の大規模ヒトゲノム情報を活用することが、一般的な疾患ゲノム研究だけでなく、人類集団の適応進化の解明に貢献することを示したもの考えられる。研究グループは、「今後、多彩な人類集団を対象にした、より大規模なヒトゲノム情報に対して、更なる適応進化の謎の解明が期待される」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大