脳の高次機能に重要な神経伝達物質グルタミン酸の主要な受容体「AMPA受容体」
横浜市立大学は1月21日、脳の機能を担う最重要分子であるAMPA受容体を、生きているヒトの脳で可視化する陽電子断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)用のトレーサー(化合物:[11C]K-2)の開発に成功したと発表した。この研究は、同大学術院医学群生理学の高橋琢哉教授、宮﨑智之准教授らと、量子科学技術研究開発機構、慶應義塾大学医学部らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
脳には1000億個以上の神経細胞が存在し、それらが電気信号を伝達することで情報をやりとりし、機能している。伝達が行われる細胞と細胞の間にはシナプスという構造があり、発信側の細胞から分泌された神経伝達物質が受け手の細胞の受容体に結合することで情報が伝わる。グルタミン酸は興奮性の情報を伝える神経伝達物質のひとつであり、記憶や学習など脳の高次機能に重要な役割を果たしている。同研究の対象であるAMPA受容体は、このグルタミン酸の主要な受容体のひとつであり、脳および脊髄に広く分布している。
AMPA受容体、てんかん患者の病巣で多く集積
AMPA受容体の生理や機能、精神・神経疾患との関連については、実験動物を用いた基礎研究から多くの知見が得られていた。しかし、それらをヒトの病気のメカニズムの理解や、科学的な根拠に基づいた診断・治療に活かせず、精神・神経疾患の診断や治療効果の判定に際しては、症状の観察や心理検査・脳波検査などに頼るしかない。これは、脳の機能を担う主役であるAMPA受容体を、ヒトの生体脳で観察することができず、病態の本質がブラックボックスであったためだ。
今回、研究グループは、ヒトの生体脳内でAMPA受容体を可視化するPET用のトレーサー(化合物:[11C]K-2)を世界で初めて開発した。また、[11C]K-2を動物に用いた前臨床研究と、健常者とてんかん患者を対象とした臨床研究により、[11C]K-2が生体内でAMPA受容体を特異的に認識していることを証明。さらに、てんかん患者の病巣(焦点)においてAMPA受容体が多く集積することを確認した。
[11C]K-2、てんかんの病巣の診断薬として多施設共同医師主導治験を実施中
今回、AMPA受容体をヒトの生体脳で可視化できたことで、精神・神経疾患の生物学的な基盤を分析し、その発症原因を説明することが可能になり、科学的根拠に基づいた革新的な診断・治療法の開発が格段に進むと期待されるという。今回研究グループが開発したPET用のトレーサー(化合物:[11C]K-2)について、てんかんの病巣(焦点)の診断薬として薬事承認を目指し、現在、横浜市立大学附属病院を主機関とした多施設共同医師主導治験が実施されている。
また、研究グループが2018年に発表した脳卒中後のリハビリテーションの効果を促進する化合物(edonerpic maleate)の治験にも、[11C]K-2が機能回復のバイオマーカーとして応用されている。
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