脳梗塞への生体防御反応をつかさどると考えられるAM
国立循環器病研究センターは1月16日、急性期非塞栓性脳梗塞患者を対象にペプチドホルモン「アドレノメデュリン(AM)」投与の安全性評価を主目的とした医師主導治験を2020年1月16日より開始すると発表した。この研究は、同センター脳神経内科の猪原匡史部長、吉本武史医師、データサイエンス部の角田良介プロジェクトマネージャーらと、宮崎大学医学部内科学講座循環体液制御学分野の北村和雄教授らによるもの。
血栓溶解療法、血管内治療法といった脳梗塞急性期治療の進歩により、閉塞血管の再開通率は70〜80%となり、多くの患者がその恩恵を受けるようになった。しかし、依然として脳卒中の死亡者数は年間11万人にのぼる。死亡には至らなかった場合であっても、脳梗塞をきっかけに寝たきりや認知症を発症するケースが多く、その医療コストは年間1兆円を超える。したがって、脳梗塞発症・治療後のQOLを改善するためには、脳梗塞により生じた脳の組織障害・機能障害を回復させること、治療により再開した血流を利用して再生を促すことが重要だ。
AMは、北村和雄教授、同センターの寒川賢治理事長特命補佐らによって発見された、52個のアミノ酸からなるペプチドホルモン。AMは循環器系臓器で広く作られ、血管を拡張させる、血管新生を促すなど、多彩な作用が知られている。脳梗塞を発症すると血管からAMが産生されることから、AMは脳梗塞に対する生体防御反応をつかさどると考えられている。
画像はリリースより
脳梗塞マウスへのAM投与で脳梗塞縮小を確認、IBD対象の治験も
近年、AMと炎症との関連が注目されている。敗血症を起こしたマウスへのAM投与で、血行動態が改善し、炎症が軽減することが報告されている。また、脳梗塞に対するAM投与の有効性は各種の動物実験で示されてきた。猪原匡史部長らは、脳循環不全後に、AMが血管新生を誘導し、炎症を抑制して、組織を保護することを示した。その他、京都大学の研究チームにより、脳梗塞モデルマウスにAMを投与すると脳梗塞が縮小することが報告され、順天堂大学の研究チームにより、体内のAMを少なくした動物では、脳梗塞が拡大することが報告されている。
AMに関しては、これまでに炎症性腸疾患(IBD)、うっ血性心不全、急性心筋梗塞、陳旧性脳梗塞の患者へのAM投与の臨床研究が報告されており、いずれも大きな有害事象は生じていない。また臨床試験としては、健常者を対象とした第1相試験が完了し、現在、潰瘍性大腸炎とクローン病を対象としたAMの治験が行われている。
目標症例数60症例、安全性評価を主目的に
AMはヒトの体内に存在する生理活性物質であることから、安全性のリスクは相対的に小さいと考えられる。今回は、新たに脳梗塞で臨床応用を目指す上での安全性を検討するため、急性期脳梗塞患者を対象にAM投与の安全性評価を主目的とした医師主導治験実施に至った。治験のデザインは複数コホート並行群間比較試験で、対照の種類はプラセボ対照、盲検化のレベルは二重盲検。目標症例数は60症例としている。
AMによって、脳梗塞の予後・QOLを2割改善できれば、4000億円/年以上の経済効果が期待される、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース