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HLAクラスIの型を問わずに輸血可能なHLA欠失iPS血小板の開発に成功-CiRA

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2020年01月06日 AM11:00

血小板輸血の5%で血小板輸血不応症、HLAクラスI合致の血小板輸血が必要

京都大学iPS細胞研究所()は12月27日、ゲノム編集技術を用いてiPS細胞からHLAクラスIを欠失させた巨核球株(imMKCL)を作製し、HLA欠失血小板を製造することに成功したと発表した。この研究は、鈴木大助 元京都大学院生(現 千葉大学医学部 学部学生)、杉本直志講師(京都大学CiRA)、堀田秋津講師(京都大学CiRA)および江藤浩之教授(京都大学CiRA、千葉大学再生治療学研究センター長)らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Stem Cell Reports」でオンライン公開されている。


画像はリリースより

血小板輸血患者の5%程度に起こる、免疫反応が関与する血小板輸血不応症では、血小板の型が合致しないと拒絶されてしまうため献血可能なドナーが限られ、供給が不足するリスクは高くなる。血小板輸血不応症の主因は、妊娠や血小板輸血を通じて、自分と異なるHLAクラスIに対する抗体ができることだ。そのためHLAクラスIを欠失させることにより、抗HLAクラスI抗体に拒絶されない”ユニバーサル”な血小板製剤の開発が検討されていた。

研究グループはこれまでに、ヒトiPS細胞から血小板が生産できることを発表し、輸血に必要なスケールでの血小板作製技術を開発するため、血小板を生み出す巨核球に着目。既に、ヒトiPS細胞から自己複製が可能な巨核球を誘導することに成功し、 生体外で凍結保存も可能な不死化巨核球株(imMKCL)として作製する方法を確立した。さらに、巨核球から血小板が出来るには「乱流」が重要なことを見出し、輸血に必要な量の良質な血小板を効率よく製造することに成功した。このimMKCLから作られる血小板がHLAクラスIを発現しないように遺伝子操作をすれば、血小板輸血不応症にも有効な血小板製剤が、実際に輸血製剤スケールに対応可能なシステムで作れることになる。一方、血小板に限らずHLAクラスIが欠失した細胞を輸血あるいは移植してもNK細胞に拒絶されないかの検証はこれまで十分には行われていなかった。NK細胞は、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞などを含むHLAクラスIの発現が低下した細胞を攻撃することが知られているが、ヒトNK細胞を有し、HLA欠失細胞が拒絶される動物モデルは確立されていなかった。

ゲノム編集技術を用いてHLAクラスI欠失iPS血小板の製造に成功

今回研究グループは、HLAクラスIを発現しない血小板を作るため、iPS細胞からHLAクラスIの構成分子であるβ2マイクログロブリン(B2M)をゲノム編集により欠失させた。このB2M欠失iPS細胞からimMKCLを作製し、HLAクラスIを発現しない血小板(HLA欠失iPS血小板)を製造することに成功した。HLA欠失iPS血小板は、野生型iPS血小板と比較して、産生性やサイズ、血小板表面分子の発現や形状において、また、品質と機能面において、同等であることが確認できた。

次に、HLAクラスIの発現を失った細胞を攻撃することが知られているNK細胞がHLA欠失iPS血小板を攻撃しないかの検証を行うため、ヒトNK細胞と培養皿での共培養実験を行った。10人以上の健常人ボランティアの血液から単離したNK細胞は、HLAクラスIの発現が欠失した白血病細胞株K562に対しては攻撃活性の指標であるCD107aの発現がはっきりと上昇していたが、iPS血小板に関してはHLAの有無によらずCD107aの発現上昇は全く見られなかった。

また、なぜ血小板が攻撃されないかの原因を探るため、NK細胞を活性化、または抑制する分子の発現を検証。フローサイトメトリー法で細胞表面の分子の発現を解析したところ、K562細胞に発現しているような、NK細胞を活性化する分子発現は認めなかった。他方、NK細胞を抑制する分子などが血小板に発現していることもなかった。これらのことから、血小板がNK細胞に攻撃されないのは、積極的に抑制はしないものの、活性化する分子を発現しないことが一因と示唆された。

抗HLA抗体にもNK細胞にも攻撃されないことを動物生体内で実証

さらに、HLA欠失iPS血小板が実際に生体内でNK細胞にも攻撃されずに循環するかを検証。熊本大学との共同研究により、まずヒト免疫細胞を持つマウスモデルを作出した。このマウスにヒト臍帯血由来の造血幹細胞を移入することによりヒト造血をマウスの体内で行えるようにし、NK細胞増殖促進因子を投与してヒトNK細胞を増やした。次に、血小板輸血不応症の状態を再現するため、抗HLAクラスI抗体を投与した状態で、HLA欠失型と野生型のiPS血小板を混ぜて投与してiPS血小板の循環実験を行った。その結果、投与した抗体がHLAを認識しないコントロール抗体の場合は、iPS血小板のHLA欠失型と野生型の比率は時間が経っても変わらなかったが、抗HLAクラスI抗体を投与した場合には、iPS血小板投与30分後の野生型の比率が減少し、3時間後以降はHLA欠失型のみが循環していた。これらのことから、HLA欠失iPS血小板は、高いNK細胞数が保たれている免疫応答状態でも、HLAクラスIによる血小板輸血不応症の状態でも有効であることが動物モデルで実証された。

今回の研究成果は、HLA欠失iPS血小板が”ユニバーサル”なHLA適合製剤として使用できる概念実証(: proof-of-concept)に当たる。HLA欠失iPS血小板の臨床応用は、HLAクラスIの不適合に由来する血小板輸血不応症への供給リスクの解消と、iPS血小板のコスト低減にもつながると期待される。さらに、血小板がHLAクラスIを発現していなくても生体内のヒトNK細胞に攻撃されないというユニークな特性や、imMKCLマスターセルから無菌的に均一な製剤を製造可能なことから、研究グループは、「HLA欠失iPS血小板は、創傷部位の再生やドラッグ・デリバリー・システムなど、血小板の様々な新しい用途にも有用と考えられる」と、述べている。

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