転写因子IRF8の免疫系への関与を解明
横浜市立大学大学院医学研究科 免疫学の田村智彦教授らのグループは、慢性骨髄性白血病と転写因子IRF8との関連性を、樹状細胞の産生や機能から見出したと、11月11日発表した。研究成果は、米国科学誌「Cancer Research」に掲載されている。
(画像はwikiメディアより引用)
BCR-ABL阻害剤の課題回復へ
慢性骨髄性白血病は、造血幹細胞における染色体の転座によって生じるBCR-ABL融合遺伝子が病因とされる。BCR-ABL阻害剤(イマチニブ)によって、患者の予後は劇的に改善したが、変異体出現による薬剤耐性や内服を中止した場合の再発などの課題から、次世代の治療法が望まれている。
IRF8の発現低下と慢性白血病
免疫の司令塔といわれる樹状細胞の研究が進む中、転写因子IRF8の重要な役割がわかってきており、IRF8欠損によってマウスに慢性骨髄性白血病に似た状態が引き起こされること、慢性骨髄性白血病患者でIRF8の発現が低下していることから、がん制御因子としての重要性も示唆されている。
IRF8発現回復で樹状細胞産生も回復
今回の研究では、未解明だった慢性骨髄性白血病の病態におけるIRF8による樹状細胞産生への関与について、モデルマウスと試験管内マウス樹状細胞産生(分化)系による解析を行った。その結果、BCR-ABLによってIRF8の発現量が低下し、樹状細胞の産生が著しく阻害されていることがわかったという。しかしながら、BCR-ABLによって抑制されたIRF8の発現は、遺伝子導入法によって回復させることができ、樹状細胞の産生を取り戻すことがわかった。このことから、BCR-ABLによるIRF8の発現抑制が、樹状細胞産生不全の直接的な原因であることが明らかとなったとしている。
この現象は現在、保険適応のあるすべてのBCR-ABL阻害剤に耐性をもつT315I変異体に対しても同じであることが確認されており、IRF8発現回復によって産生が元に戻った樹状細胞では、そのサイトカイン産生能や細胞障害性T細胞の誘導能がむしろ高まっていたという。
今回の成果により、IRF8の発現回復が慢性骨髄性白血病の新しい治療法の開発につながると期待される。(長澤 直)
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