PPARαをより活性化する肝代謝薬剤は血管新生抑制に作用するかを検討
慶應義塾大学は12月17日、抗高脂血症薬の選択的ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体α(PPARα)モジュレーターである「ペマフィブラート」(製品名:パルモディア)が、網膜症のモデルマウスで、網膜の病的血管新生を有意に抑制すること、また、同薬が網膜の血管新生抑制に作用していることを見出したと発表した。これは、同大医学部眼科学教室の坪田一男教授、栗原俊英特任准教授、富田洋平訪問研究員、小澤信博助教らの研究グループと興和株式会社の共同研究によるもの。成果は、「InternationalJournal of Molecular Sciences」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
現在、糖尿病網膜症(DR)や加齢黄斑変性(AMD)は日本の失明原因の上位を占めており、共通の病態として、「病的血管新生」がある。抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)療法が確立され、一定期間においては完全矯正視力の改善・維持が得られるようになったが、高額な医療費、合併症、視力改善困難な症例等、多くの課題が存在する。
海外の大規模臨床試験で、脂質代謝改善薬である「フェノフィブラート」がDRの進行を抑制したという結果が得られ注目を集めた。その作用メカニズムはPPARαの活性化にあるとされていたが、DRに対する治療効果のメカニズムには、未だ統一された見解はない。また、AMDの発症メカニズムも不明な点が多く、AMDと脂質沈着との関連も報告されており、脂質のコントロールも疾患の制御に重要な要素になると考えられている。
近年、選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)である「ペマフィブラート」が、高脂血症に対する治療薬として日本で承認販売が開始された。同剤は、既存薬であるフェノフィブラートと同等の血清のトリグリセリド(TG)低下作用と、HDLコレステロールの上昇作用があるが、腎代謝であるフェノフィブラートと違い、肝代謝であるため、軽度腎障害のある患者への利用が期待されている。同剤はフェノフィブラートより特異的にPPARαを活性化させるといわれているが、未だ眼疾患への評価の報告はない。そこで研究では、網膜の病的血管新生のモデルである酸素誘導性網膜症(OIR)モデルマウスで、ペマフィブラート投与による抗血管新生効果を検討した。
肝臓のFgf21発現亢進により血中FGF21濃度上昇することで、血管新生抑制に作用
OIRモデルマウスは、ペマフィブラート投与群、フェノフィブラート投与群、投与されていないコントロール群で検討された。結果、ペマフィブラート投与群では、網膜での病的血管新生が有意に抑制された(p<0.01)。一方、フェノフィブラート投与では、有意な病的血管新生の抑制効果は認められなかった。また、ペマフィブラートの投与により、肝臓のFgf21遺伝子(Fgf21)の発現の亢進と、血漿中FGF21濃度の上昇、網膜でのVegfaの発現低下も確認された。フェノフィブラート投与群では、血漿中FGF21の濃度上昇と、網膜でのVegfaの発現低下を認めたが、肝臓でのFgf21の発現亢進は、コントロール群と比べ有意ではなかった。
これは、ペマフィブラートが肝臓におけるFgf21の発現を亢進することで、血中FGF21濃度を上昇させ、網膜に到達した血中FGF21が抗血管新生に作用する可能性を示唆。免疫組織化学染色によって検討したところ、ペマフィブラート投与によって網膜での低酸素誘導因子HIF-1α発現が抑制されていることがわかった。培養網膜細胞を使った実験でも、FGF21が直接HIF活性を抑制していることが確認された。
近年、長期作用型のFGF21が、網膜、脈絡膜において病的新生血管を抑制するという報告や、神経網膜の保護効果を持つということが報告されている。現在、世界各国で約1万人の患者を対象とした大規模な国際共同治験「PROMINENT試験」が行われており、網膜疾患に関する解析も行われる予定。「さらにFGF21とその網膜症発症・進行との関りを検討することで、失明を防ぐ治療薬の開発の一助となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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