手術後癒着形成、腹部において発症率67~93%との報告も
兵庫医科大学は12月10日、手術後癒着について、全ての臓器・腹膜を覆う中皮細胞が線維形成の原因であり、インターロイキン6(IL-6)を中心とする分子機構を発見したと発表した。この研究は、同大外科学肝・胆・膵外科の藤元治朗特別招聘教授、宇山直樹非常勤講師らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」電子版に掲載された。
手術後癒着は、外科手術を受けた後に、腹膜と他の内臓臓器、または腸管を中心とする臓器同士が癒着する現象で、腸閉塞、腹痛、不妊などの癒着合併症を併発する。現在、日本では年間約200万人が全身麻酔手術を受けており、毎年約120万人の癒着患者が発症していると推定されている。外科手術は急速な発展を遂げ、臓器移植・拡大手術から低侵襲の内視鏡手術に至るまであらゆる術式を選択することが可能となった。しかし、手術後の癒着形成は、腹部において発症率67~93%と報告されている。また、手術を行う外科医にとっても、癒着があることで手術の難易度が上がり、臓器損傷やがんの根治術が困難となって手術時間が長くなるという問題があり、医療費面でも大きな負担となっている。だが、これまで手術後癒着の発生機序は明らかにされていなかった。
画像はリリースより
IL-6により好中球が産出したTGF-βによって、中皮細胞が線維を産生して癒着形成
今回、研究グループは、腹膜中皮細胞がIL-6を生み出していること、IL-6により好中球がTNF-αおよびTGF-βを産生すること、TGF-βにより中皮細胞自身が線維を産生し、癒着を形成することを明らかにした。これらの結果から、抗IL-6受容体抗体の有用性を確認し、今後、臨床での治療に役立てられる可能性が示されたという。研究グループは現在、付随研究として非侵襲的癒着診断技術(超音波動体追跡ベクトル法)およびIL-6下流シグナル分子制御法の開発も進めている。
同研究は、癒着研究の第一報(Nature Medicine, 2008)後、継続してきた研究だ。癒着形成の分子機構を解明したことで予防法の可能性が示された、と研究グループは述べている。
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