世界的な問題となっている薬剤耐性、米国3.5万人以上、欧州3.3万人以上と推定
国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター(厚労省委託事業)は12月5日、薬剤耐性(AMR)対策に関する研究成果を発表した。これは同センターの都築慎也主任研究員らと、国立感染症研究所薬剤耐性研究センターと共同で行ったもの。成果は、「Journal of Infection and Chemotherapy」に掲載されている。
画像はリリースより
AMRに関連して、米国では年間3.5万人以上、欧州では年間3.3万人が死亡していると推定されている。2050年には、世界全体でAMR関連死亡数が年間1000万人に達する可能性があるとされている。一方、日本におけるAMR関連死亡数はこれまで明らかにされていなかった。
研究グループ今回、薬剤耐性菌の中でも頻度が高い「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」と「フルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)」について、日本国内でのそれらの菌血症による死亡数を検討。厚生労働省院内感染対策サーベイランス(事務局:国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)のデータから全国の菌血症症例数を算出し、過去の研究に基づいた死亡率と合わせて菌血症による死亡数を推定した。
MRSAは減少傾向である一方、FQRECは増加傾向に
MRSA菌血症による死亡数は、2017年で4,224人(95%信頼区間2,769-5,994)と推定された。2011年は5,924人(95%信頼区間3,837-8,513)で、次第に減少していた。黄色ブドウ球菌菌血症全体の死亡数は横ばいであり、黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合が、次第に低下しているためと考えられる。
一方、FQREC菌血症による年間死亡数は、2017年で3,915人(95%信頼区間3,629-4,189)と推定された。2011年は2,045人(95%信頼区間1,869-2,220)であり、次第に増加していた。これは大腸菌菌血症全体の増加に加え、大腸菌のフルオロキノロン耐性が増加しているためと考えられる。
今回の検討対象とした薬剤耐性菌2種の菌血症で合計約8,000人が死亡しており、日本でもAMRが大きな被害を及ぼしていることが明らかとなった。薬剤耐性菌の種類によって傾向が異なることから、その原因を検討するとともにそれぞれの特徴に合わせて対策を行う必要性が示唆される。「臨床現場ではさまざまな薬剤耐性菌が問題となっている。今後、他の薬剤耐性菌についても死亡数の推定を行うとともに、社会への影響をより精緻に推定するための手法を検討していきたい」と、研究グループは述べている。