必須アミノ酸のトランスポーターLAT
千葉大学は11月29日、膜タンパク質「アミノ酸トランスポーターLAT1(SLC7A5)」が腎臓でがんに特異的に発現し、がんの転移や発現に関わることを明らかにし、同トランスポーターの阻害により抗がん作用を確認したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究院の安西尚彦教授と市川智彦教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載された。
画像はリリースより
アミノ酸トランスポーターは、ヒトの細胞内でアミノ酸を運ぶ役割を担っている。特に、Large neutral amino acid transporter(LAT)は人体の維持に必要な必須アミノ酸(ロイシンなど)を取り込む役割がある。LATには1~4まで種類があり、中でもLAT1はさまざまながん細胞に発現することから、近年注目を集めている。これまでに、ジェイファーマ株式会社の遠藤仁氏と安西教授らの研究グループは、LAT1阻害剤(JPH203)を開発。消化器領域の一部のがんでは、同剤の抗がん作用が確認されていた。
LAT1阻害薬、腎細胞がん細胞に対して抗がん作用
研究グループは今回、腎細胞がんの手術を受けた患者のがん組織と正常組織をLAT1に反応する抗体で染色した。その結果、がん組織にLAT1が多く発現しており、また、がん組織におけるLAT1の発現が多いほど転移や再発が多いことが明らかになった。
続いて、腎細胞がん細胞にJPH203を投与したところ、細胞の中に入るアミノ酸量が減少することがわかった。必須アミノ酸の流入が減少することで、アミノ酸などの栄養素によって活性化され、がんの細胞増殖に重要な役割を果たすリン酸化酵素mTORの活性が低下することを理由のひとつとして、腎細胞がんの細胞増殖が抑制されることが明らかになったという。
これらの結果から、アミノ酸トランスポーターLAT1自体が腎細胞がんの腫瘍マーカーとなる可能性があり、また、JPH203はその治療薬となる可能性があることがわかった。研究グループは今後、千葉大学医学部附属病院泌尿器科との共同研究で、腎細胞がんだけでなく前立腺がん、膀胱がんなど他のがんへの応用研究や、ヒトへの阻害薬投与を行う臨床試験を計画しており、実用化に向けて研究を進めていくとしている。
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