統合失調症、双極性障害、自閉スペクトラム症、うつ病を、MRI拡散強調画像を用い大規模解析
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は11月29日、日本全国12の研究機関が連携して、4大精神疾患(統合失調症、双極性障害、自閉スペクトラム症、うつ病)におけるMRI拡散強調画像を用いた大脳白質構造についての大規模解析を行ったと発表した。この研究は、NCNP精神保健研究所 精神疾患病態研究部の橋本亮太部長、東京大学医学部附属病院精神神経科の越山太輔医師(留学中)、同科の笠井清登教授(東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)らの研究グループが、認知ゲノム共同研究機構 (COCORO) によるオールジャパンでの多施設共同研究体制のもとで行ったもの。研究成果は、「Molecular Psychiatry」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
統合失調症や、双極性障害、自閉スペクトラム症、うつ病などの主要4大精神疾患は、それぞれの疾患で特有の症状を示す一方で、共通の症状も多く見られる。これらの精神疾患に共通の遺伝的異常についてはこれまでに報告が見られるものの、大脳の灰白質もしくは白質などの病態生理学的な疾患横断的な異常については現状では十分に理解が進んでいるとは言えなかった。これらの疾患に共通した病態生理学的な異常、もしくは疾患特有の異常を明らかにすることは、より適切で客観的な診断に重要で、ひいては効果の高い新しい治療法の開発に重要な意味を持っている。
近年、米国を中心としたEnhancing Neuro Imaging Genetics through Meta-Analysis (ENIGMA) Schizophrenia Working Groupという国際的な大規模多施設共同研究により、統合失調症と健常者でMRI拡散強調画像データを用いて大脳白質の微小構造を比較し、統合失調症で大脳白質構造である放線冠前部、脳梁体、帯状束、脳弓などの大脳白質の微小構造に異常が見られることが明らかにされた。しかしながら、統合失調症、双極性障害、自閉スペクトラム症、うつ病などの主要4大精神疾患に共通した大脳白質の微小構造異常、もしくは疾患特異的な異常はこれまでに報告がなかった。
統合失調症と双極性障害に似通った異常、自閉スペクトラム症とうつ病における異常は軽微
今回研究グループは、日本全国の12の研究機関から、統合失調症696人、双極性障害211人、自閉スペクトラム症126人、うつ病(大うつ病性障害)398人、健常者1,506人の計2,937人のMRI 拡散強調画像データを収集し、大脳白質微小構造についての大規模解析を実施。結果、統合失調症においては、健常者と比較して、鉤状束、脳梁体、帯状束、脳弓のFAの低下やMD、AD、RDの増加が認められた。次に精神疾患共通および特異的な異常についての検討を行ったところ、健常者に比べ、統合失調症、双極性障害、自閉スペクトラム症では大脳白質領域のひとつである脳梁体に共通してFAの低下もしくはMD、RDの増加が確認された。特に統合失調症と双極性障害では、脳弓や帯状束のような大脳辺縁系の白質領域に共通してFAの低下もしくはMD、AD、RDの増加が見られた。一方で、健常者と比べた場合に統合失調症にのみ、鉤状束のような大脳新皮質同士をつなぐ大脳白質領域にMD、AD、RDの増加が見られることがわかった。しかしながら健常者とうつ病では大脳白質領域に微小構造の違いは見られなかった。疾患同士での直接比較では、統合失調症と双極性障害との間に大脳白質領域の微小構造の違いは見られなかった。一方で、統合失調症および双極性障害ではうつ病よりも大脳辺縁系領域でMDとRDが増加しており、これらは統合失調症および双極性障害と健常者との間の違いと同じようなパターンが見られた。
以上の結果により、統合失調症と双極性障害は似通った病態生理学的特徴をもち、うつ病は健常者に近い生物学的特徴を有している可能性があることが、新たに明らかとなった。また、自閉スペクトラム症では、脳梁体にのみFAの低下が見られたため、自閉スペクトラム症もまた、より健常者に近い生物学的特徴を有しているかもしれないことが判明した。今回の研究成果について研究グループは、「近年進みつつある従来の精神疾患の診断基準の見直しに一石を投じる可能性がある」と、述べている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース