TLR7を介して不利益な免疫応答を活性化する自己細胞由来RNAを探索
東京大学先端科学技術研究センターは11月5日、自己の細胞に由来し、生体に不利益な自然免疫応答を活性化するRNAを同定したと発表した。この研究は、東京大学の谷口維紹名誉教授、同生産技術研究所の根岸英雄特任助教(研究当時、現、同医科学研究所特任講師 )らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「PNAS」のオンライン版で公開されている。
画像はリリースより
免疫細胞にはさまざまなパターン認識受容体(Toll様受容体(TLR)、RIG-I様受容体(RLR)、NOD様受容体(NLR)など)が発現しており、病原体に対する免疫応答の活性化に重要な役割を果たしている。一方で、このパターン認識受容体が自己の細胞に由来する成分によって活性化することが病気の発症や増悪に寄与することも知られている。特にパターン認識受容体の中でも一本鎖RNA(ssRNA)を認識する受容体であるTLR7が、さまざまな自己免疫疾患や炎症性疾患に関与することが知られている。しかしながら、TLR7を介して不利益な免疫応答を活性化する自己細胞由来のRNAについては、その実態が不透明なままだった。
低分子RNA「U11snRNA」、RA/SLE患者血清で病気の程度と相関して増加
研究グループは、自然免疫応答の制御機構の解明と制御法の開発を推進してきた。その中で、RNAに直接結合し、そのRNA受容体リガンドとしての活性を阻害する低分子化合物KN69を開発することに成功した。さらにKN69がマウスモデルで自己免疫疾患の病態を抑制できることを見出したため、KN69に結合する内在性のRNAを網羅的に同定し、これらRNAの中から自己免疫疾患の病態と関連するRNAを探索した。
その結果、関節リウマチ(RA)および全身性エリテマトーデス(SLE)患者の血清中で、病気の程度と相関して増加するRNAとして、「U11snRNA」という低分子RNAを同定。興味深いことに、解析したRNAの中で血清中での増加はU11snRNA特異的に起こる現象であり、U11snRNAの血中量は、「IFNシグネチャー」と呼ばれる自己免疫疾患に特徴的な遺伝子群の発現上昇とも相関することわかった。さらに、このU11snRNAは、これまで知られている自己由来RNAと比較して、RNA受容体に対する強いリガンド活性を有することが判明。マウスへの投与で関節炎を誘導することもわかった。加えて、研究グループはU11snRNAの強いリガンド活性のメカニズムを解明し、その原理を元に、RNA受容体を強力に活性化するアゴニスト(SM-PS)、または抑制するアンタゴニスト(SM-MePS)の作成にもそれぞれ成功した。
今回の発見および成果は、RNA受容体が関与するさまざまな疾患の発症や増悪のメカニズム解明につながることが期待される。また、「化合物やアンタゴニストは、RNA受容体の関与する疾患の治療薬として、アゴニストは感染症やがんに対するワクチンの効果を高めるアジュバントとしての開発がそれぞれ期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京大学先端科学技術研究センター プレスリリース