経験的に便通効果があることなどが知られている漢方便秘薬の作用メカニズムを研究
京都府立医科大学は10月29日、ヒトの大腸上皮細胞において、漢方便秘薬に含まれる主要な生薬がカリウムとクロライド(塩素イオン)を移動させることで腸の水分分泌を増やすことを発見したと発表した。この研究は、福岡大学医学部の沼田朋大講師、京都府立医科大学の岡田泰伸特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版で掲載された。
画像はリリースより
高齢者の約10%が便秘だと感じているとされ、超高齢社会を迎えた日本において、慢性便秘症患者の増加が予想される。そのため、便秘解消のために有効な便通改善成分を持つ薬の開発が望まれている。
日本で広く用いられている漢方便秘薬は、経験的に便通効果があり副作用も少ないことが知られているが、腸の細胞における水分分泌調節には、どのようなイオンの出し入れを行って水を動かしているか、どのイオンチャネルを通っているのか、その分子はわかっていなかった。
潤腸湯・麻子仁丸、腸の上皮細胞からK+とCl−を同時的に流出させることで強力な腸の水分分泌作用を発揮
今回、研究グループは、漢方便秘薬に含まれる主要な生薬成分の水分分泌能の機能評価により、イオン流出路を発見。また、漢方便秘薬の潤腸湯や麻子仁丸に含まれるマシニン、キョウニン、トウニン、ダイオウのそれぞれが、単独でも大腸上皮で水分分泌を引き起こすことも確認した。マシニンが嚢胞性繊維症膜コンダクタンス制御因子(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator:CFTR)クロライドチャネルを介してクロライドイオン(Cl−)を流出させる一方、キョウニン、トウニン、ダイオウが大コンダクタンス Ca2+活性化カリウムチャネル(big-conductance Ca2+ -activated K+channel:BK)を介してカリウムイオン(K+)を流出させることが明らかになった。
これらの生薬成分の組み合わせにより、腸の細胞から腸管内へプラスに荷電したカリウムとマイナスに荷電したクロライドが同時的に流出して、効率的に水の流出をもたらすことが、便秘改善(緩下)作用をもたらすメカニズムだと確認した。つまり、潤腸湯や麻子仁丸は、腸の上皮細胞からK+とCl−を同時的に流出させることで強力な腸の水分分泌作用を発揮することを科学的に実証した。
今回の研究成果より、Kイオンチャネル活性化を促す生薬は、高血圧症、気道過敏症、勃起不全、てんかんの治療薬として、Clイオンチャネル活性化を促す生薬は、心筋梗塞、気管支炎、肺炎の治療薬としても期待できるという。新たな生薬の組み合わせによる、有効な新しい漢方薬の開発や生薬成分の分析結果を基とした創薬の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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