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大脳皮質運動野の光刺激で、コモン・マーモセットの腕運動の誘発に成功-東大ら

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2019年10月25日 AM11:00

光遺伝学を用いて、霊長類の大脳皮質運動野を調査

東京大学は10月23日、霊長類コモン・マーモセット大脳皮質運動野の神経活動を光刺激することによって腕の運動を誘発できることに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科機能生物学専攻生理学講座細胞分子生理学分野の松崎政紀教授(理化学研究所脳神経科学研究センター脳機能動態学連携研究チーム チームリーダー)、蝦名鉄平助教、自治医科大学分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部の水上浩明教授、自然科学研究機構生理学研究所生体システム研究部門の南部篤教授、理化学研究所脳神経科学研究センター高次脳機能分子解析チームの山森哲雄チームリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は「Proceedings of National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されている。

大脳皮質の運動野は、手や足などを動かすために必要な脳の領域。各体部位の動きは運動野の中の別々の領域でコントロールされており、運動野の特定の領域の神経活動を上昇させると、その領域に対応する体部位の運動を誘発することができる。脳の神経活動を制御するための方法として、最近では光遺伝学を利用する研究が増えてきている。この方法は、これまでに広く用いられてきた電気生理学的な方法と比較して、標的の神経細胞のみの神経活動を特異的に、かつ、高い空間分解能で制御することができる。そのため、さまざまな生物種で知覚・認知・運動に関連する神経活動の解明に大きく貢献している。

ヒトが持つ高次脳機能の基盤メカニズムを解明し、精神・神経疾患を克服するためには、ヒトが属する霊長類の脳をターゲットとした研究が不可欠だ。ところが、過去10年間、霊長類脳の運動関連領域の活動を光刺激して手や足の動作を誘発することは世界的に成功しておらず、光遺伝学によって運動野の機能を解明しようとする研究はほとんどなかった。霊長類の高度に発達した脳の神経ネットワークの全容を細胞レベルで理解することを目標に、2014年、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」が日本で開始された。モデル動物は、新世界ザルに分類されるコモン・マーモセットである。マーモセットはヒトと共通性を持った高度に発達した脳、ヒトと類似した生理学的、解剖学的な特徴や薬物代謝を持っている。研究グループはこのプロジェクトの一環として、光遺伝学的に霊長類大脳皮質運動野の機能を非侵襲的かつ網羅的に解析するための技術開発を目指し、研究に取り組んだ。

神経活動を上昇させるタンパク質を発現させ、光刺激により腕運動を誘発

画像はリリースより

はじめに、導入遺伝子の発現を増幅させる方法(Tet発現誘導法)を利用し、青色光の高頻度照射によって神経活動を上昇させることができる光活性化タンパク質(チャネルロドプシン2)を、マーモセットの大脳皮質運動野に発現させた。次に、マーモセットの大脳皮質運動野の上部に非侵襲的に光ファイバーを設置して光刺激することで、腕の運動が誘発されることを確認した。その上で、大脳皮質運動野を小区画に分割して、それぞれの区画を光刺激した。

光刺激で誘発された運動について、手の軌道の解析から、中央の区画では手が体の中心から外側に向かって上後方に、その両端の区画では下前方に移動していたことがわかった。また、同様に肘の軌道の解析により、中央より左側の区画では肘を後方に引く軌道になっていたのに対し、右側の区画では肘を前に押し出す軌道になっていたことも判明。さらに、腕を使った運動課題をマーモセットに行わせているときに、通常は腕運動を誘発できない微弱な光刺激で運動野を操作すると、強い光刺激で誘発される腕運動と同じ向きに腕を動かすことがわかった。これらの結果から、マーモセットの運動野では、さまざまな向きの腕の動きが別々の領域でコントロールされており、それぞれが協調的に機能することで複雑な腕の運動が形成されている可能性が示唆された。

日本は、次世代まで導入遺伝子が受け継がれる遺伝子改変マーモセットの作製に世界で初めて成功しており、現在、精神・神経疾患モデルの作製が進められている。これまでに研究グループは、マーモセットでの脳活動を単一細胞レベルでイメージングする技術と、複雑な運動機能を評価するための腕運動課題を開発してきた。今回開発した技術を加えることで、運動失調を示す疾患モデルマーモセットでの運動野活動と行動の関連性と因果性を調べることが可能になる。「これらの開発により、特に脳神経損傷後のリハビリにおける運動野機能や、パーキンソン病などにおける運動失調の理解が大きく進展し、精神・神経疾患の運動失調に対する新たな治療方法の開発が期待できる」と、研究グループは述べている。

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