人工神経接続システムによる脳刺激で、運動機能再建を検討
生理学研究所は10月16日、手の運動機能を持たない脳領域に「人工神経接続システム」を使って、新たに運動機能を付与することに成功したと発表した。この研究は、東京都医学総合研究所 脳機能再建プロジェクトの西村幸男プロジェクトリーダー(元生理学研究所、元京都大学)と、加藤健治(元生理学研究所、現国立長寿医療研究センター)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
研究グループは以前の研究で、脊髄損傷モデル動物のまひした手について、脳と脊髄とをつなぐ人工神経接続システムでその運動機能を再建することにも成功している。今回の研究では、脳自体を損傷した脳梗塞モデル動物(サル)を用いて、この人工神経接続システムが随意運動機能再建に有効であり、人工神経接続システムが切れてしまった神経経路の代わりになるかどうかを検討した。
損傷していない脳領域との接続でも運動機能の再建ができる可能性
研究グループが開発した「人工神経接続システム」は、脳の神経細胞と似たような役割をするコンピューターで、上位の神経細胞の情報を受け取り(入力)、次の細胞にその情報を伝える(出力)ように設計されている。これを利用して、脳梗塞により脳と脊髄をつなぐ神経経路を損傷しているモデル動物の損傷部位をバイパスし、脳の信号をまひした筋肉に伝えた。
脳梗塞からの機能回復は1か月以上の懸命なリハビリにより実現する場合があるが、今回のシステムを用いると、10分程度で脳梗塞モデル動物は人工神経接続システムに適応し、まひした手を自在に動かすことができるまでに回復した。その際、約25分でまひした手の運動を司る脳領域が小さく集中するように脳領域を超えた大規模な脳活動の適応が起こり、顔や肩の運動を司る脳領域が、人工神経接続を介してまひした手を自分の意思で動かせるようになった。また、もともと運動機能を持たない脳領域で感覚機能を持つ体性感覚野でも、同様に、まひした手を動かせるようになった。このことは、脳梗塞によって脳の一部が損傷しても、人工神経接続システムに損傷されずに残存している脳領域をつなぐことによって、随意運動機能の再建ができる可能性を示すものである。
今後は、長期間の人工神経接続システムにより、脳損傷・脊髄損傷から免れた神経のつながりを強化し、人工神経接続システムがなくても身体を自分の意志で動かせるように回復できるかどうかを検証する必要がある。また、今回の成果とこれまでの成果は、モデル動物で人工神経接続システムの有効性を示すことができた。これを脳梗塞患者と脊髄損傷患者で検証することが次の課題であると述べている。
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・生理学研究所 プレスリリース