EMRの手技を改良、腫瘍の周囲を切開してから切除する「Precutting EMR」
京都府立医科大学は10月10日、大腸がんやポリープの切除における内視鏡的粘膜切除術(EMR)の手技を改良し、腫瘍の周囲を切開してから切除を行う「Precutting EMR」の有効性を証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科消化器内科学の吉田直久講師らの研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「Endoscopy」オンライン速報版で公開されている。
大腸がんは、早期発見できれば内視鏡切除による低侵襲な治癒が期待できる。早期大腸がんの内視鏡治療には2つの手技があり、主に腫瘍径約2cmまでのものに行われるEMR、2cm以上の腫瘍や2cm未満でも陥凹した形状でEMRが困難な腫瘍に行われる内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)がある。また前がん病変である大腸ポリープ(大腸腺腫)についても同様にEMR、ESDがなされている。
画像はリリースより
手技時間20分未満、再発率が低いなどのメリット
今回、研究グループが考案した「precutting EMR」は、従来EMRに用いるスネア(金属の輪)を大部分収納することで電気メスのような形状として用いる。まず、腫瘍の周囲に局所注射を行い膨隆させ、その後スネアの先端で腫瘍の周囲を部分的にもしくは全周性に切開を加えることで、腫瘍をスネアで把持する際に滑りにくくなり、腫瘍を確実に把持することが可能となる。局注液には、EMRの際に用いる生理食塩水の代わりにESDの際に用いるヒアルロン酸ナトリウムを用いることで、高い安定した膨隆が得られ、切開がしやすくなるという。
このprecutting EMRは、通常のEMRでは困難な2cm以上の腫瘍や2cm未満でも陥凹した腫瘍などを、取り残しなく安全で確実に切除できる手技だ。また、ESDに比べて手術費用が少なく、手技時間は20分未満と短く、入院期間はEMRと同等の1泊であること、再発率が低く経過観察の内視鏡も少ないというメリットを有している。また、これまで、EMRでは少し大きめのサイズの腫瘍の場合、腫瘍の取り残しのリスクが高い分割切除となることも少なくなく、周囲切開を行うことで分割切除を防止することができるという。
従来法と比較、一括切除率が優位に高い結果
2011~2018年に同院でprecutting EMRで治療した10-30mmの腫瘍について、2012~2014年に従来法のEMRで治療した症例と年齢、性別、腫瘍部位、サイズなどをマッチングさせて比較検討した。結果、20mm以上の腫瘍において一括切除率(取り残しなく腫瘍を切除しえた率)はprecutting EMRでは 88.6%と従来法のEMRの48.5%に比して有意に高かった。また20mm未満でもEMRが困難な腫瘍においてprecutting EMRを行った事例では、その一括切除率は98.0%で、従来法の85.7%に比べ有意に高い結果であった。
治療時間も20mm以上の腫瘍に対しては平均19.5分で、従来法のEMRよりはわずかに長いものの、ESDの1時間以上の手技に比べ短い時間で確実な腫瘍切除が行える。20mm以上の腫瘍においては全周切開が97.1%に行われており、20mm未満であれば71.4%に全周切開が行われ、残りの 28.6%は部分切開のみで切除が可能である。
研究グループは、「precutting EMRは、EMRを行える内視鏡医であれば誰でもできる手技だ」としており、「患者負担の軽減、医療費の削減への効果も期待できる」、と述べている。
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・京都府立医科大学 プレスリリース