大きく複雑な形状の頭蓋咽頭腫に対する経錐体法
大阪市立大学医学研究科 脳神経外科学の大畑建治教授らのグループが、脳深部に発生する良性脳腫瘍に対する高難度な手術方法をより簡便化するための手法を確立したという。11月16日、同大学より発表された。
(画像はプレスリリースより)
この手術方法が対象としているのは、脳腫瘍の中でも摘出がもっとも難しい腫瘍とされる頭蓋咽頭腫で、そのなかでもさらに切除が難しい、大きく複雑な形状のもの。錐体骨を削除して切除する経錐体法で、この方法は難易度がきわめて高いため、開発した大阪市立大学以外では、ハーバード大学でしか行われていないという。
発表によると、大畑教授らは30年にわたる経験から、この経錐体法の国内外における一般普及を可能とする簡便化を目指して成功をおさめるにいたり、10年間で再発のない生存率86.5%の好成績を記録したとされている。
経錐体法のこれまでの経緯
周囲と癒着しながら発育する頭蓋咽頭腫の切除は、腫瘍をとり囲むように視神経や内頸動脈等が存在するため、無理に切除しようとすると、重篤な合併症を招く。このリスクを回避しようとすると、腫瘍がしばしば残存してしまうほか、その部位に放射線治療を試みても、放射線に脆弱な視神経に近接しているため、十分な線量を用いることが難しく、長期的には高い割合で再発してしまう。
良性腫瘍の基本的治療は、手術による摘出であり、頭蓋咽頭腫に対しても、全摘出が可能となる手術方法の発展が望まれる。そこで頭蓋底手術による方法が発展してきているが、代表的な経蝶形骨洞法、前頭蓋底到達法、経眼窩頬骨到達法などでは、狭い視野のために大きな腫瘍や後方に進展する例、石灰化を伴う腫瘍は取ることができなかった。
そこで、同大学の研究室では、1985年に経錐体法による頭蓋咽頭腫の切除方法を開発した。この方法は、課題を解決するものの、煩雑な作業を必要とし、従来の手術方法に限界を感じた医師によって散発的にとられるに限られてきたという。
簡便化した方法での研究成果を新たに報告
こうしたこれまでの経緯を踏まえ、研究室ではこの経錐体法を簡便化した方法で、腫瘍摘出度、合併症、視機能、内分泌学的評価、高次脳機能評価、長期の腫瘍制御率を検討する新たな研究を実施。
方法は、まず錐体骨の切除を外側のみとし、開頭時に露出されるS状静脈洞は剥離子で直接骨から分離。脳脊髄液漏を予防するため、胸鎖乳突筋弁を剥離し、腫瘍摘出後に削除した錐体骨の上面を覆う。そして、錐体骨の辺縁にそって骨を削除し、三半規管を部分切除。天幕を切開し、三叉神経と滑車神経を剥離して、脳深部に入ったところで交通動脈が低形成なら切断し、動眼神経の上下から腫瘍を剥離するというものになっている。
この方法によって、従来より広く腫瘍を露出でき、視神経や内頸動脈等を損傷することなく腫瘍が摘出でき、長期の腫瘍制御においても良好な結果を得られるようになったという。報告された結果では、手術15例で腫瘍はほぼ全摘出され、術前に視力異常のみられた14例中13例で視力が改善、また術前からホルモン補充療法が行われていたものの、術後に新たなホルモン異常が生じたのは2例にとどまっている。高次脳機能評価は14例で維持され、1例で改善、5年および10年間の無再発率はいずれも86.5%となっている。
研究室では、この手術方法を普及させることで、国内外における頭蓋咽頭腫の治療成績を向上させることができると期待されるとしている。なおこの研究成果は、米国東部時間の11月15日付で「Journal of Neurosurgery」オンライン版に掲載された。(紫音 裕)
▼外部リンク
大阪市立大学 プレスリリース
http://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2013/34k7gr
Journal of Neurosurgery : Surgical outcomes of the minimum anterior and posterior combined transpetrosal approach for resection of retrochiasmatic craniopharyngiomas with complicated conditions Clinical article
http://thejns.org/doi/abs/