1年程度で効果が薄れるEGFR-TKI、新治療法を探索
近畿大学は10月5日、EGFR遺伝子変異を有する肺がん患者に対する新たな治療法を確立したと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(腫瘍内科部門)の中川和彦教授が、肺がん領域では日本人初のグローバルPI(Principal Investigator:治験を主導する責任者)となり、日本イーライリリー株式会社と共同で行われたもの。研究結果は、「The Lancet Oncology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
肺腺がんは、肺がんの中で最も多くを占め、国内では肺腺がん患者の半数がEGFR遺伝子変異を有するとされている。EGFR遺伝子変異陽性患者には、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が有効だが、その多くは1年程で効果が薄れ、抵抗性を示すことから、非小細胞肺がんにおけるEGFR遺伝子変異は世界的な問題となっている。また、EGFRの阻害に加え、悪性腫瘍の進展において重要な役割を持つ血管新生に関連する血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)を阻害することが有効であることが最新の研究によって明らかにされ、ダブルブロックを可能とする新しい治療法の開発が長い間望まれていた。
エルロチニブとラムシルマブ併用療法が再増悪リスクを40%以上減少、新たな1次治療に期待
今回の治療法の承認申請を目的とした国際共同比較第3相試験(RELAY試験)には、世界13か国100施設から449人が参加し、約半数の218人は日本から登録された。試験では、EGFR-TKIのエルロチニブ(製品名:タルセバ)と抗VEGFR-2抗体であるラムシルマブ(製品名:サイラムザ)の併用療法群(以下、ラムシルマブ併用群)と、エルロチニブとプラセボを併用する群(以下、プラセボ群)が比較検討された。
同試験の主要評価項目である無増悪生存期間は、ラムシルマブ併用群において、プラセボ群と比較して統計学的に有意に延長していることが証明された。PFS中央値は、併用群で19.4か月、プラセボ群で12.4か月、ハザード比は0.591、p<0.0001。患者背景の違いは加味しなければならないものの、この試験で示されたラムシルマブ併用群のPFS中央値はこの領域で報告されている他のどの試験よりも長く、新しい治療法として期待される。
また、これまでの試験結果と大きく異なるのは、EGFR遺伝子変異のサブタイプ(Exon19欠失およびExon21 L858R変異)のいずれにもラムシルマブ併用による一貫した治療効果が観察されていることだ。これまでPFSの延長が伸び悩んでいたExon21 L858R変異を有する非小細胞肺がん患者にとってより期待される結果であったことが考察されている。また、EGFR-TKIに抵抗性を示す原因の約半数を占めるEGFR T790M発現率は、ラムシルマブ併用群とプラセボ群の間に差は無く、ラムシルマブをエルロチニブに併用することでT790M発現率に影響を及ぼさないことが確認された。このことは、エルロチニブ+ラムシルマブ併用療法後に、第3世代のEGFR-TKIに効果的につなげられる可能性が示されたことになり、重要なポイントである。今後、この治療法がEGFR遺伝子変異を有する肺がん患者の新たな1次治療になることが期待される。
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