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細菌に備わる「薬剤排出ポンプ」の進化を解明、Hibの多剤耐性化リスクを指摘-阪大

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2019年09月20日 PM12:00

細菌の多剤排出ポンプ、多剤排出能を得たタイミングは?

大阪大学は9月13日、細菌多剤耐性化に深く関与していることが知られているRND型薬剤排出ポンプ数百種類について、分子系統解析を行うことにより、これらポンプの遺伝的進化を初めて解明したと発表した。この研究は、同大産業科学研究所のマータイン ズワーマー特任助教、西野邦彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Communications Biology」にオンライン掲載された。


画像はリリースより

)は、臨床的に問題となっている病原細菌で、抗菌薬に耐性を示す細菌の出現が、世界中でヒトの健康の脅威となっている。細菌多剤耐性化機構のひとつとして、RND型排出ポンプの存在があり、このポンプは、多くの構造的に関連性のない抗菌薬や毒物を排出する(多剤排出ポンプ)。細菌には複数の多剤排出ポンプが存在しているが、これらポンプの多剤排出能は、古くから備わっているものなのか、進化的に獲得されたものなのかについては明らかにされていなかった。

多剤排出能は古来備わっていた

研究グループは、インフルエンザ菌の多剤排出ポンプAcrB(AcrB-Hi)が、進化上、比較的古い排出ポンプであることを明らかにし、新しいポンプである大腸菌AcrB(AcrB-Ec)との機能を比較して解析を行った。その結果、AcrB-Hiは、AcrB-Ecから系統的に離れているにも関わらず、Hib感染症治療に用いられるβ-ラクタム系抗菌薬を含め、AcrB-Ecと同様に幅広い薬剤を排出する能力が備わっていることを実験的に証明した。すなわち、RND型ポンプにみられる多剤排出能は進化的に獲得されたものではない可能性があり、古来、この能力が備わっていたことが示唆された。

進化したAcrB-Ecには、薬物結合ポケットにアミノ酸であるフェニルアラニンに富んだ疎水性トラップがあり、これはAcrB-Hiにはない特徴。研究グループは、排出ポンプ阻害剤であるABI-PPがこのトラップに強く結合して、フェニルアラニン残基と強く結合することを以前に発見したが、今回の研究で、AcrB-Hiは阻害剤によって機能が抑制されないことがわかった。また、AcrB-Ecは抗菌薬排出に加え、非常に効率的に胆汁酸塩も排出するが、AcrB-Hiの胆汁酸排出能力はとても低いものであり、このことから、大腸菌が生息する胆汁酸塩が富んだ環境に適合するためにポンプも適応したことが示唆された。

インフルエンザ菌に多剤耐性化の潜在的リスク

研究グループは次に、AcrB-Hiが多くのβ-ラクタム系抗菌薬を効率的に排出するにも関わらず、なぜインフルエンザ菌がβ-ラクタム系抗菌薬に感受性を示し、同薬による治療が効果的であるのか、その理由を明らかにしたいと考え、研究を進めた。その結果、口径が広い外膜タンパク質OmpP2がインフルエンザ菌に存在することが、その理由であると判明。OmpP2が存在することにより、β-ラクタム系抗菌薬はより効率的にインフルエンザ菌の中に流入し、この効率的な流入がAcrB-Hiポンプによる能動的排出を相殺していることがわかった。

今回の結果から、RND型排出ポンプによる多剤排出能は古来備わっているものであると考えられる。AcrB-Ecは進化して、ピットがよりフェニルアラニンに富んだ状態になり、より効率的で特異的なポンプとなったと考えられるが、その結果、阻害剤によって機能が抑制されることになったことは、細菌にとって不利な予期せぬ進化の結果であったことが示唆される。「将来的にAcrB-Hiポンプが過剰発現し、外膜タンパク質OmpP2の変異や発現の低下により、現在β-ラクタム系抗菌薬に感受性であるインフルエンザ菌Hib株が多剤耐性化して臨床的に問題になる可能性がある」と、研究グループは潜在的リスクを指摘し、「インフルエンザ菌の潜在的な多剤耐性因子や薬剤排出ポンプの進化を理解することは、新規抗菌薬の開発にとって重要である」と、述べている。

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