がん細胞の悪性化を促進する機能を有するCAF
名古屋大学は8月22日、膵臓がんを抑制する線維芽細胞の特異的マーカー「Meflin(メフリン)」を同定し、がんの周りに増生する線維芽細胞の性質の多様性ががんの促進や抑制に影響することを見出したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科の髙橋雅英教授、榎本篤准教授、藤城光弘教授、水谷泰之病院助教、島村徹平教授らと、北海道大学の芳賀永教授、藤田医科大学の廣岡芳樹教授、重井医学研究所の松山誠室長らとの共同研究によるもの。研究成果は、米国がん学会誌「Cancer Research」のオンライン版で掲載された。
画像はリリースより
膵臓がんなどの難治がんの特徴のひとつは、がん細胞の量と比べて間質の量が非常に多く、その間質中に多くの線維芽細胞の増生を伴うことだ。線維芽細胞は身体のすべての臓器に存在し、それらの形や構造の維持に必須の細胞。がんが発生すると、がん細胞から産生されるさまざまな因子によってがん関連線維芽細胞(CAF)が増える。CAFは、がん細胞の悪性化を促進する機能を有しており、CAFを標的とした新規治療法の開発が期待されている。
CAFは免疫細胞と同様に多様性に富む存在であり、「がん促進性CAF」と「がん抑制性CAF」の両者が存在する、という仮説が提唱されている。しかし、後者の細胞の本態や特異的マーカー分子は明らかになっていない。
Meflin陽性CAF、がん抑制性CAFの可能性
研究グループは、以前に、間葉系幹細胞のマーカーとして同定された膜型分子Meflinが、膵臓がんのCAFの一部の種類に発現していることを明らかにしている。今回の研究で、膵臓がん発症マウスモデルでMeflin遺伝子を欠失させると、がんの進行を促進することを発見。Meflin陽性CAFを欠失したマウス個体では、より悪いタイプ(低分化型)の膵臓がんが高頻度に出現することが明らかになった。また、膵臓がん細胞の移植実験で、Meflin陽性CAFを除去すると腫瘍の増殖が盛んになり、ある特定の細胞の運命を追跡する実験では、がんの進行に伴って、Meflin陽性CAFが別のタイプのCAFに分化することも見出したという。
さらに、コラーゲンなどの細胞外基質を観察するための特殊な顕微鏡を用いた検証から、Meflin分子の機能は間質の硬化やがん細胞の悪性化に結びつく細胞外基質の改築の抑制であることも判明した。これらの結果から、Meflin陽性CAFは、これまで本態が不明だったがん抑制性CAFの可能性が示唆された。また、がんの進行に伴ってCAFにおけるMeflinの発現が低下し、CAFががんの進行を促す細胞に変化する、すなわち「がん抑制性CAF」から「がん促進性CAF」に形質転換する可能性も示された。
また、研究グループは、線維芽細胞にビタミンDを投与することでMeflinの発現が上昇することも明らかにしたという。現在、米国では既存のがん薬物療法にビタミンDを組み合わせた治療法の治験が複数進行しており、それらの結果と今回の研究成果の関連の解明も期待されるとしている。
現時点では、がん抑制性CAFの存在は、膵臓がんのみで提唱されているものであり、他のがんに関しては詳細に解析されていない。研究グループは今後、「他のがんでも、がん抑制性CAFの存在の有無を確認していく必要がある」と、述べている。
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