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神経障害性疼痛の原因物質としてFLRT3を特定、鎮痛薬開発に期待-阪大

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2019年08月14日 AM11:15

神経興奮による痛み情報の増幅メカニズムを研究

大阪大学は8月9日、神経の異常な興奮で起こる痛みである神経障害性疼痛において、痛みの伝達に重要である脊髄後角でFLRT3タンパク質の発現が増加し、痛みを増幅させることを動物モデルで発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科分子神経科学の藤田幸准教授、山下俊英教授(分子神経科学)らによるもの。研究成果は、「Journal of Neuroscience」に、7月25日付で公開された。


画像はリリースより

痛みは人体の危険を知らせる重要な警告システムである一方で、生理的に害となる痛みも存在する。必要以上に長く続く痛みや原因不明の病的な痛みは、慢性疼痛と呼ばれる。慢性疼痛は、患者数が全世界で15億人以上とされ、経済的損失も大きいことから、社会問題となっている。特に、神経の損傷や機能障害をきっかけとして発症する神経障害性疼痛は、既存薬による治療効果が低いことから、有効な治療法の確立につながるような、新たな発症メカニズムの解明が必要とされている。

神経障害性疼痛の病態形成には、痛みの伝達経路の異常が強く関与していることが知られてきた。特に、末梢からの痛み情報を修飾して中枢へと伝える脊髄の後角は、神経障害性疼痛の主要な原因箇所であることがわかっている。神経の損傷によって、脊髄後角では神経回路の再編が起こり、神経細胞が過剰に興奮した状態に陥る。この神経興奮による痛み情報の増幅が神経障害性疼痛の原因になると考えられてきたが、神経興奮がどのような分子メカニズムで起こっているのか、その詳細は不明だった。

脊髄後角でFLRT3発現増加、抑制で鎮痛効果

今回研究グループは、痛みシグナルの伝達や中継に重要な部位である末梢神経、および脊髄後角に着目し、痛みの増幅に関わる分子や、そのメカニズムを調べた。同研究グループの先行研究から、脊髄後角のネトリン-4タンパク質が、Unc5B受容体を介して、脊髄後角での神経興奮を引き起こすことがわかっていた。しかし、ネトリン-4は神経損傷後に発現増加しないことから、神経損傷をきっかけとしてUnc5Bを介したシグナルのスイッチとなるメカニズムがあるのではないかと考えられた。そこで、Unc5Bと結合する他の分子が疼痛の発症に必要である可能性を検討した。その結果、Unc5Bの結合パートナーのひとつであるFLRT3タンパク質が、疼痛モデルの末梢神経、および脊髄後角で発現増加することを見出した。

次に、脊髄で増加するFLRT3が疼痛を引き起こすのかを検証した。ラットの脊髄髄腔内にFLRT3を投与すると、通常のラットでは痛みとして認識されないような軽度の刺激でも、痛みを生じ、痛覚過敏の症状が起こることを確認。このとき、活性化した神経細胞の数が脊髄後角で増加していた。したがって、FLRT3は神経の異常な活性化を介して痛みを引き起こす物質であることがわかった。さらに、末梢神経が障害され痛覚過敏の症状があるラット(神経障害性疼痛モデルラット)に、FLRT3の機能を抑制する抗体を脊髄髄腔内へ投与する、またはFLRT3の発現を抑える核酸(shRNA)を末梢神経で発現させることによって、持続的な鎮痛効果が見られた。FLRT3の機能を抑制する抗体は、FLRT3とUnc5B受容体との結合を抑制したことから、脊髄後角で発現が増加したFLRT3は、痛みを伝える二次痛覚神経に発現するUnc5B受容体に結合することで、この神経に神経興奮を引き起こし、神経障害性疼痛を発症させることが示唆された。

今回の研究成果により、神経損傷後に末梢で発現するFLRT3が脊髄後角に運ばれ疼痛を誘発する働きがあること、疼痛モデルにおいてFLRT3抗体投与が鎮痛効果をもたらすことがわかった。「FLRT3という損傷部特異的に発現上昇する分子を標的に定めることで、治療効果が高く安全な疼痛治療薬の創出につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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