薬剤開発や再生医療に向け、腎臓前駆細胞の大量増幅が必要
熊本大学は7月26日、ヒトiPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞を試験管内で増やす方法を開発したと発表した。この研究は、同大発生医学研究所の谷川俊祐助教、西中村隆一教授らによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports 」オンライン版に8月1日付で掲載された。
画像はリリースより
尿の産生や血圧の調節など生命の維持に必須の器官である腎臓は、一度機能を失うと再生しない。胎児期には尿を産生する重要な組織であるネフロン(糸球体と尿細管)が腎臓前駆細胞から作り出されるが、その細胞はヒトの腎臓が出来上がる出生前に消失してしまう。これが、腎臓が再生しない理由のひとつとされている。
研究グループは2014年に、ヒトiPS細胞から腎臓前駆細胞を誘導する方法を報告。さらに2016年には、iPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞をマウスに移植すると糸球体のポドサイトが成熟することを証明し、2018年には先天性ネフローゼ症候群患者由来のiPS細胞にこれらの方法を応用して小児腎臓病の初期状態再現を報告していた。これらの方法を薬剤開発や再生医療に応用するためには、前駆細胞を大量に増やす必要がある。研究グループは2016年にマウスの胎仔から単離した腎臓前駆細胞の増幅法を報告したが、ヒトiPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞の増幅には限界があった。
1週間で5倍に増幅、凍結保存も可能に
研究グループは以前、マウスの腎臓前駆細胞は、WNT、FGF、LIF、BMPという4つの成長因子の添加で維持と増幅が可能であると報告している。今回は、腎臓前駆細胞が緑色に光るヒトiPS細胞を作成し、WNT、FGF、LIFという条件にBMPではなくアクチビンというタンパク質を加えることがヒトiPS細胞由来の腎臓前駆細胞の増幅に有効であることを発見した。アクチビンを加えた腎臓前駆細胞は1週間で5倍に増え、90%以上の純度を保っており、最大2週間の増幅が可能だった。増幅した腎臓前駆細胞は試験管内で腎臓組織(糸球体と尿細管)を作ることができ、マウスに移植すると、糸球体が血管とつながり、糸球体の成熟も進んだ。
増やした腎臓前駆細胞は凍結保存でき、融解後も腎臓組織を作ることができた。さらに、緑色に光るといった遺伝子操作を加えていないiPS細胞からでも、アクチビンによって腎臓前駆細胞を増やせることが示された。これにより、ヒトiPS細胞から腎臓前駆細胞を誘導する2週間の時間を省略し、腎臓前駆細胞誘導法の技術を習得しなくても、腎臓組織を作ることが原理的に可能となった。
今回の研究は、ヒト腎臓前駆細胞をiPS細胞から作成し、腎臓組織を作る能力を保持しながら増幅させ、さらに凍結保存することを可能にしたもの。この成果は、患者由来iPS細胞から作成した腎臓組織の病態解明や薬剤開発の研究、さらに腎臓組織を再構築する再生医療につながることが期待される。
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