「MYMLR」が肺がんの発生・増悪に関わっていると判明
日本医療研究開発機構(AMED)は7月30日、スーパーコンピュータ「京」と実験を統合的に用いて、肺がん細胞の増殖に重要な長鎖ノンコーディングRNA「MYMLR」を発見したと発表した。この研究は、愛知県がんセンター分子診断トランスレーショナルリサーチ分野の梶野泰祐主任研究員と高橋隆総長らの研究グループと、名古屋大学の島村徹平教授、東京大学医科学研究所の宮野悟教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、欧州分子生物学機構(EMBO)の機関誌「The EMBO Journal」オンライン速報版に掲載されている。
画像はリリースより
近年のゲノム研究から、細胞内には数万種類ともいわれるタンパク質に、翻訳されずRNAのままで機能する長鎖ノンコーディングRNAが発現しており、タンパク質と長鎖ノンコーディングRNAの間には、複雑な制御関係が存在することが最近分かってきていた。この長鎖ノンコーディングRNAによる制御機構の破綻が、細胞のがん化に密接に関わる可能性が示唆されており、肺がんの発生・増悪に重要な役割を担う長鎖ノンコーディングRNAの発見が求められていた。
スーパーコンピュータ「京」で遺伝子の発現情報を解析
研究グループは、代表的ながん遺伝子であり、肺がん細胞の増殖に必須な転写因子MYCに着目。スーパーコンピュータ「京」を用いて、肺がん患者の腫瘍組織における遺伝子の発現情報を解析し、MYCを制御する新規長鎖ノンコーディングRNA「MYMLR」を発見。肺がん細胞株を用いてMYMLRの機能について調べたところ、MYMLRはMYCの発現維持に必要であり、肺がん細胞の増殖において重要な働きを持つことが判明した。このMYMLRによるMYCの制御機構を詳細に解明するために、MYMLRと協調して働くタンパク質を探索し、MYMLRと結合するタンパク質としてPCBP2を同定した。さらにMYMLRはPCBP2と結合してMYC遺伝子近傍のゲノムDNAを湾曲させ、遺伝子の発現制御を担うエンハンサーをプロモーターに近接させることにより、MYCの転写を制御していることを解明した。
今回の研究成果により、代表的な難治がんの肺がんにも有効な、MYMLRを標的とした新たな治療法の開発が進むことが期待される。「今回スーパーコンピュータを駆使したシステム生物学的手法による探索を行い、長鎖ノンコーディングRNAとタンパク質の制御関係に迫れることを示したことで、今後、数万種類もの長鎖ノンコーディングRNAの機能の解明に道をひらくものとして期待できる」と、研究チームは述べている。
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・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース