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治りづらい「床ずれ」のメカニズムを明らかに-群馬大

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2019年07月31日 AM11:30

床ずれは高齢者に生じやすく、日本の患者数は増加傾向

群馬大学は7月29日、治りづらい床ずれ()のメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科皮膚科学の茂木精一郎准教授らの研究グループが、同大大学院医学系研究科口腔顎顔面外科学・形成外科学と山梨大学医学部皮膚科学講座、金沢医科大学総合医学研究所生命科学研究領域細胞医学研究分野と共同で行ったもの。研究成果は国際雑誌「Journal of Dermatological Science」に掲載されている。


画像はリリースより

脂肪・筋肉量の低下、骨突出、免疫能低下、知覚低下、創傷治癒力低下など加齢による変化によって高齢者では褥瘡が生じやすく、治りにくいことが知られている。超高齢者社会を迎えている日本では、褥瘡患者数が増加し、褥瘡治療の医療費や人件費も増大しているため、褥瘡の予防・治療・管理の重要性は高まっている。

亜鉛は生体において必須な微量元素であり、高齢者においては摂取量不足、腸管の吸収率低下、生活習慣病の合併などによって亜鉛欠乏症が多いことが知られている。これまでの臨床経験から、亜鉛欠乏によって、褥瘡が生じやすく治りにくくなると想定されていたが、科学的に証明した研究はこれまでに報告されていなかった。そこで今回の研究は、亜鉛欠乏状態における褥瘡の発生と悪化の機序を解明することを目的として行われた。

亜鉛の経口補充により、亜鉛欠乏マウスの褥瘡が著明に改善

研究グループは、亜鉛欠乏食または亜鉛含有食を2週間与えたマウスを用いて、マグネットを用いた皮膚の圧迫による褥瘡モデルを作製し、圧迫部に生じる褥瘡の面積を比較した。その結果、亜鉛欠乏マウスでは、皮膚の圧迫による褥瘡の大きさが有意に増大し、また治癒が遷延することを見出した。褥瘡部位における血管傷害量およびアポトーシス細胞数は、正常マウスと比べて亜鉛欠乏マウスで増加していた。

次に、酸化ストレスを可視化できるマウス(OKD48マウス)に亜鉛欠乏食を摂取させて、褥瘡部位における酸化ストレスの程度を検討した。その結果、OKD48マウスにおいて、皮膚圧迫によって誘導された褥瘡部位の酸化ストレスシグナルは、亜鉛欠乏マウスにおいて有意に増強していた。このことから、亜鉛欠乏によって生じる酸化ストレスの増加が治りづらい床ずれのメカニズムのひとつと考えられるという。さらに、亜鉛欠乏状態により、皮膚圧迫部でCD39を発現するランゲルハンス細胞数が減少することも明らかにした。最後に、亜鉛欠乏マウスに対する亜鉛の経口補充による治療効果について検討した結果、亜鉛の経口補充によって、亜鉛欠乏マウスで増悪した褥瘡が著明に改善したという。

亜鉛欠乏状態における床ずれの悪化のメカニズムについて、研究グループは次のように考察した。亜鉛欠乏がない場合は、皮膚の持続的な圧迫によって血栓が形成され、血管損傷が生じ、皮膚の低酸素がもたらされるため酸化ストレスが亢進。亜鉛欠乏では、SODの機能低下によってROS量が増加し酸化ストレスが亢進すると考えられる。一方、皮膚の圧迫や低酸素刺激により表皮細胞から細胞外にATP が放出されて炎症が引き起こされる。亜鉛欠乏では、ATPを不活性化する分子であるCD39を発現するランゲルハンス細胞が少なくなることや、ALP、ENPPといったATP分解酵素の機能不全も生じる。その結果、褥瘡部位の細胞外 ATP量が増加し、さらなる炎症が引き起こされる可能性が考えられる。結果、亜鉛欠乏によって引き起こされるこれらの病態が、褥瘡()を増大させて、治りにくくさせている。

今回の研究成果によって、褥瘡患者では血清亜鉛値を測定して、低亜鉛の場合は、積極的に亜鉛の経口補充を行うことで褥瘡の改善・治療につながる可能性が考えられる。「高齢者など、褥瘡を起こすリスクの高い患者においても、積極的に血清亜鉛値を測定して、低亜鉛であれば経口補充することで、褥瘡の発生予防にもつながると考えられる」と、研究グループは述べている。

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