Pendrinの機能を代償するヨードトランスポーターを探索
杏林大学は7月25日、SLC26A7遺伝子が先天性甲状腺機能低下症の新たな原因遺伝子であることを発見したと発表した。この研究は、同大医学部病理学教室の菅間博教授、木村徹講師が、獨協医科大学の石井順助教と共同で行ったもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
ヨウ素は甲状腺ホルモンを合成するために必要不可欠な元素であり、食事から摂取してそのほとんどがヨードトランスポーターを介して甲状腺に貯蔵される。これまでに甲状腺で働くヨードトランスポーターとして、血管側に存在し、血液の中から細胞の中にヨウ素を取り込むSLC5A5、管腔側に存在し細胞に取り込んだヨウ素を濾胞(甲状腺ホルモンを合成する領域)に運ぶSLC26A4(Pendrin)が知られていた。SLC26A4遺伝子は、甲状腺腫大(Goiter)と難聴を伴うペンドレッド症候群の原因遺伝子。この症候群では半数以上で甲状腺機能が正常であるため、甲状腺濾胞細胞の管腔側には、SLC26A4とは別にヨードトランスポーターが存在することが示唆されていた。
甲状腺でSLC26A4のヨウ素輸送機能をSLC26A7が代償
今回研究グループは、ペンドレッド症候群に類似の甲状腺腫を伴う先天性甲状腺機能低下症の兄妹とその家族の全エキソーム解析を行い、患者ではSLC26A7遺伝子の機能が失われる変異があることを見出した。この遺伝子は陰イオンを運ぶトランスポーターであることが想定されていたが、甲状腺での発現やその機能、そして病気との関連性は全く知られていなかった。そこでSLC26A7がSLC26A4と同様に甲状腺でヨウ素を輸送していると仮説を立て、実験を進めた。
まず、SLC26A7の特異抗体を作成し、ヒト甲状腺組織の免疫染色で、SLC26A7がSLC26A4と同様に甲状腺の濾胞細胞の管腔側に局在していることを特定。次に、哺乳類の培養細胞を用いてヨウ素の輸送を評価した結果、SLC26A7は細胞の膜に発現し、細胞内から細胞外へのヨウ素輸送に関わっていることが明らかになった。さらに、患者にみられた遺伝子変異を導入すると、SLC26A7タンパク質は細胞膜に局在しなくなり、その結果としてヨウ素を輸送する能力が消失。SLC26A4と比較し、ヨウ素を輸送する能力は低いものの、甲状腺での発現量が多いことから、甲状腺でSLC26A4のヨウ素輸送機能を代償する重要なタンパク質であると考えられた。
研究グループは、「今回の研究でヨウ素輸送に関わる新たな分子が解明されたことで、今後、同じような特徴を持つ先天性甲状腺機能低下症患者や、頻度の高い甲状腺腫大(Goiter)のより詳細な病態解明に結びつくとともに、病気の原因に対して特異的な治療の開発が期待される」と、述べている。
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・杏林大学 医学部研究成果