臨床現場即時検査への実用化に不可欠な、小型計測系の開発
東京大学は7月18日、スマートフォン小型蛍光顕微鏡を開発し、高感度デジタルインフルエンザウイルスの検出に成功したと発表した。この研究は、同大大学院工学系研究科の皆川慶嘉特任研究員、上野博士助教、田端和仁講師、野地博行教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Lab On a Chip」に掲載されている。
画像はリリースより
がん、ウイルス、細菌の感染に関する標的分子を迅速かつ定量的に測定する高感度バイオセンシング手法として、1分子デジタル計測がある。数十万個のマイクロメートルサイズの微小液滴に標的となるバイオマーカーである分子を確率的に1個ずつ閉じ込め、分子に起因する信号を「0」と「1」の2値化して、「1」の信号を発する液滴の数から標的分子を定量・検出する手法だ。微小液滴内に閉じ込められた標的分子が触媒活性を所持している、もしくは酵素で修飾された抗体を結合させた場合、触媒活性によって生じる反応生成物は微小液滴内に濃縮される。生成物が蛍光であれば、通常の蛍光顕微鏡で迅速に検出することができる。
これらの技術は、核酸を検出するPCRや酵素が結合した抗体を用いるELISAと合わせることにより、従来よりも高感度で定量性の高いデジタルPCRとデジタルELISAとして、応用されている。また、インフルエンザを液滴内に閉じ込めて1粒子の検出を行う「デジタルインフルエンザ」も開発されている。しかし、これまで1分子デジタル計測を行うためには、微小液滴を観察可能でかつ蛍光を検出する必要があることから、大型の蛍光顕微鏡が必要だった。そのため、ベッドサイドや在宅で医療従事者が検査を行う臨床現場即時検査(POCT)への実用化には、コンパクトな計測系の開発が不可欠だった。
検出感度は従来のイムノクロマト法の約100倍
研究グループは今回、スマートフォンを検出器とした23cm×10cm×7cmという小型で持ち運び可能な小型蛍光顕微鏡のプラットフォームを開発。実際に、スマートフォンのカメラを検出器として用いて、酵素(ALP)を用いたデジタル酵素アッセイに成功し、さらに1粒子のインフルエンザを検出するデジタルインフルエンザ計測にも成功したという。安価なフィルターと光学系を使用しているため、従来の蛍光顕微鏡に比べて感度は劣るが、病院で使用されるイムノクロマト法によるインフルエンザ検出キットよりも100倍も高い感度を示した。また、インフルエンザ患者のうがい液からのウイルス検出にも成功した。
今回、スマートフォンを検出器とした小型蛍光顕微鏡が新たに開発され、高感度デジタル計測が可能となった。研究グループは、「これら技術が実際に医療現場に導入されれば、医療機関だけに依存しない、地域医療や在宅医療などの充実につながることが予測される。また、他のデジタル計測手法(デジタルPCR、デジタルELISA)を、開発した小型蛍光顕微鏡で行うことにより、幅広い分野項目の検査が可能になることが期待される」と、述べている。
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・東京大学大学院工学部 プレスリリース