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顕微鏡撮影画像と人工知能を用いた簡便な白血病の薬剤耐性検査法を開発-東大

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2019年07月16日 PM12:45

溶血や標識なしで白血病細胞の薬剤耐性評価を可能に

東京大学大学院は7月10日、マイクロ流体チップ上を毎秒100万細胞以上のスループットで流れる多数の血液細胞を特殊な高速明視野顕微鏡を用いて無標識で連続撮影し、抗がん剤によって生じた白血病細胞の微妙な形態学的変化を、深層学習を用いて高精度に検出することで、白血病細胞の薬剤耐性を全血中で評価することに成功したと発表した。この研究は、同大学院理学系研究科の小林博文特別研究員、雷誠特任助教、合田圭介教授らが、同大学院医学系研究科の安本篤史助教、矢冨裕教授と協同で行ったもの。研究成果は、英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)のジャーナル「Lab on a Chip」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

白血病治療では、極めて強力な化学療法を施す必要があり、患者の身体に大きな負担がかかる。近年、個々の細胞の機能を直接測定するファンクショナル・アッセイが白血病の精密医療のひとつとして注目されているが、現在のファンクショナル・アッセイは蛍光標識した細胞を撮影するものが多く、さまざまな制約を受けることがある。例えば、蛍光撮影は撮影速度が遅く、溶血や標的細胞の濃縮など前処理をする必要があるため、全血をそのまま測定することはできない。また、蛍光標識自体も高価であり、医療診断のひとつとして利用するには、費用と時間、手間を要する。

撮影画像を深層学習で解析

今回の研究ではまず、オプトフルイディック・タイムストレッチ顕微鏡と呼ばれる特殊な高速明視野顕微鏡を用いて、マイクロ流体チップ上を毎秒100万細胞以上のスループットで流れる多数の血液細胞を無標識で連続撮影。抗がん剤によって生じた白血病細胞の微妙な形態学的変化を、撮影した画像から深層学習により高精度に検出することで、白血病細胞の薬剤耐性を採血した全血中で評価することに成功した。

さらに、深層学習を活用し、赤血球や白血球に混ざった白血病細胞を画像の中から識別できるようにした。深層学習では、エンコーダー(Encoder)とデコーダー(Decoder)呼ばれる2組の畳み込みニューラルネットワークを利用し、画像から特徴量を抽出することにより、薬剤耐性を評価する。エンコーダーで抽出された特徴量が細胞の形を十分捉えていることを保証するために、デコーダーがこの特徴量を使い、もう一度入力画像を復元できるようにしているという。

特徴量の情報量は入力画像よりもはるかに少ないため、厳選された特徴量しか抽出されない。この方法を実際の白血病患者の血液に適用したところ、白血病患者の白血球が健常人の白血球よりも薬剤応答性が高いことが判明。この結果から、今回の研究で得られた技術は、実際の臨床検体に対しても利用できることが示され、無標識による薬剤耐性検査の実用に向けた大きな前進となった。

迅速・簡便・安価な白血病の薬剤耐性検査へ

今回の研究では、最もよく使われる1種類の抗がん剤に対して薬剤耐性の評価を行ったが、この技術を用いてさまざまな薬剤に対しても同様に薬剤耐性評価を行うことができると期待される。多くの薬剤に対して形態学的変化のデータベースを構築すれば、広範囲な無標識血液検査を行うこともできると期待される。また、白血病患者以外の血液細胞に適用することにより、さまざまな疾患に対する迅速な検査の実現も期待される。

近年、深層学習の分野における進歩はすさまじく、高度な深層学習モデルを導入すれば、例えば、異なる薬剤を混合した際の効き目を評価するなどの、より高度な解析をすることも可能。「この技術を用いることにより、患者ごとの薬剤耐性を無標識の血液サンプルから迅速に調べることができるため、これまでの個別化医療の定石であったバイオマーカーに頼らない、新たな個別化医療を可能とする技術として精密医療を促進させる可能性を秘めている」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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