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大脳オルガノイドを用いた機能的な神経ネットワークの創出と、その評価方法を確立-CiRA

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2019年07月02日 PM01:45

ヒト細胞由来の機能的な大脳神経ネットワークの形成・評価法について研究

京都大学iPS細胞研究所()は6月28日、ヒト多能性幹細胞由来の大脳オルガノイドを用いて、機能的な神経ネットワークの形成とその評価方法の確立を行ったと発表した。この研究は、日本学術振興会の坂口秀哉特別研究員PD(元・京都大学CiRA臨床応用研究部門、現・米国ソーク研究所ポストドクトラルフェロー)、京都大学CiRAの髙橋淳教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」のオンライン版で公開されている。


画像はリリースより

ヒト大脳の神経活動については、大脳の部位によって各種の神経活動が分担されており、その各神経機能は複数の神経細胞を含む神経ネットワークの活動によって担われていると考えられている。大脳の障害が起こると、脳卒中や神経変性疾患などの器質的な障害の場合は、障害の部位に応じ、麻痺や知覚異常、高次脳機能障害などが起こることが知られ、一方で、神経機能の調節に異常が生じると、精神疾患をきたすと考えられている。

近年、3次元で生体と同じような構造を保った組織への分化誘導が可能となり、このような組織はオルガノイドと呼ばれ、その分化誘導手法が注目されている。神経組織においては、、神経網膜、海馬、脈絡叢、小脳、視床下部、下垂体、中脳、脊髄などが3次元組織として分化誘導できることが報告されているが、これまでの研究では、大脳におけるネットワークとしての神経機能を十分に評価できていなかった。研究グループはこれを受け、ヒトES/iPS細胞を用いた3次元での大脳分化誘導の先に、機能的な神経ネットワークの構築と、その詳細な評価方法の確立に取り組んだ。

神経活動を、包括的評価として測定することが可能に

研究グループは、マウスおよびヒトの多能性幹細胞から中枢神経系を3次元で効率よく誘導する方法として知られる無血清立体浮遊培養法(SFEBq法)を用いて、発生学的な大脳の分化をin vitroで再現するところから研究を開始。ヒトES細胞を用いて無血清立体浮遊培養法を行い、TGFβ阻害剤による神経組織誘導と、Wntシグナル阻害剤による組織の前方化によって大脳マーカーを発現する3次元神経組織を分化誘導した。この条件で誘導された組織には、終脳(最終的に大脳になる部分を含む)のマーカーであるFOXG1が上皮全体に発現しており、培養37日目にPAX6+/SOX2+の大脳皮質に存在する前駆細胞の神経上皮が見られ、その外側には胎生期の脳と同様にTBR1+やCTIP2+の大脳皮質神経細胞を認めた。同様の結果はヒトiPS細胞を用いても再現することができ、ヒト多能性幹細胞の凝集塊から複雑な大脳組織が自己組織化的に誘導されることが示された。

誘導した神経組織をさらに長期培養すると、100日以上の培養が可能で、培養時期に応じて厚みを増し、発生過程を模倣可能なことも確認できた。さらに、組織の透明化と3次元イメージングを行いて投射性神経細胞マーカーの1つであるCTIP2+の細胞が神経前駆細胞マーカーPAX6+の球状の上皮構造を取り巻くように位置する3次元構造の可視化にも成功した。

次に、この3次元大脳組織の神経活動について評価した。2光子顕微鏡を用いて組織表面から100μmほど深部における細胞内カルシウム動態の評価を行ったところ、培養76日、90日、104日のいずれのサンプルにおいても、神経細胞における散発的なカルシウム発火を認めた。ただし、神経機能評価における成熟の1つの指標となる同期発火は少数の細胞では認めたが、ネットワークとしての広い同期発火を認めることはなかった。

さらに、機能的な神経ネットワークの構築のため、大脳オルガノイドの分散培養を行った。まず培養70~100日の大脳オルガノイドを分散培養したところ、ネットワークの形成が確認できた。ここで形成されたネットワーク構造は、培養期間が長くなるに応じてより長く、より太いファイバーを形成した。免疫染色によって、細胞凝集塊を形成するのは主にグルタミン酸作動性の興奮性神経細胞で、GABA作動性の抑制性ニューロンがその周辺に存在していることが判明。また、細胞凝集塊の細胞は、CTIP2やSATB2を発現することから、大脳の投射性神経細胞であることが示唆された。

最後に、この神経ネットワークの機能を確認するため、カルシウム指示薬を用いてネットワークにおける細胞内カルシウム動態を評価した。分散2週目までは神経活動は散発的で、主に非同期性の発火からなる神経活動を認めた。しかし培養4週目に評価すると、同期性の神経活動が、非同期性の活動と共に認められた。これは時間依存性の神経活動の成熟を示唆する結果と考えられる。このことから、ヒト神経活動の評価基盤として、より包括的な評価ができないかを模索。今回構築した新しい評価方法では、1820細胞分の細胞内カルシウム動態を数値化し、細胞の分布、活動細胞と非活動細胞の可視化、発火パターンのラスタープロッティング、発火パターンのクラスタリングなどを示した。この新たな方法により、ヒト神経細胞から成るネットワークとしての神経活動を、既存の方法では評価が難しかった包括的評価として測定することが可能となった。さらに、薬剤添加によって、これらの神経活動は変化するという。

精神疾患の病態解析や疾患モデル創出などへの応用に期待

今回の研究では、ヒトES/iPS細胞から3次元大脳組織を分化誘導し、そこから神経ネットワーク形成のために組織の分散培養を行い、得られた同期発火を含む複雑な神経活動データを包括的に解析することに成功した。誘導した大脳組織は発生学的な背景を反映したマーカー発現や構造を有しており、ヒト大脳皮質の発生過程を模倣していると考えられ、その応用例としての分散培養を通した神経ネットワーク構築は、将来的にヒト大脳を対象とした疾患へのアプローチをより容易にする可能性を持っていることが示唆された。

研究グループは、「本研究での成果は、脳の機能異常が表現系の本質にあるとされる統合失調症や気分障害、自閉症などの神経精神疾患モデルの構築に寄与すると思う。特に神経活動の包括的な動的評価については、これまでに達成することの困難であった精神疾患における創薬スクリーニング基盤の構築に役立てば嬉しい」と、述べている。

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