生体信号の揺らぎに着目した数学理論により、未病の科学的検出に成功
富山大学は6月25日、生体信号の揺らぎに着目した数学理論(動的ネットワークバイオマーカー理論)により、実用的に簡易化したインデックスを用いて実データを解析することで、メタボリックシンドロームの未病を科学的に検出したと発表した。この研究は、同大和漢医薬学総合研究所漢方診断学分野の小泉桂一准教授、同情報科学分野の奥牧人特命准教授、消化管生理学分野の門脇真教授、同大齋藤滋学長および東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構の合原一幸教授らのグループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
中国最古の医学書「黄帝内経(こうていだいけい)」には、未病の時期を捉えて治すことが最高の医療であると記載されているが、「黄帝内経」より2千数百年を経た現在、未病の重要性が改めて認識されている。
疾患の発症前や超早期において予防的・先制的医療介入を行うことで、その発症や重症化を未然に防ぐ手段の確立が、社会的に強く求められている。実際に、平成29年2月に閣議決定された内閣府の「健康・医療戦略」には、「健康か病気かという二分論ではなく健康と病気を連続的に捉える未病の考え方などが重要になると予想され(中略)新しいヘルスケア産業が創出されるなどの動きも期待される」と記載されており、未病研究は、国としての重要な政策課題と位置付けられている。しかし、これまで未病という考え方は、経験知に基づく概念的なものとされ、科学的には証明されていなかった。
メタボ発症以前5週齢の時点で成体信号の「揺らぎ」が増加
研究グループは、未病を科学的かつ定量的に検出するため、生体信号の「揺らぎ」に着目した数学理論である動的ネットワークバイオマーカー理論(DNB理論)を用いて検証を行った。DNB理論では、健康な状態から病気の状態へと遷移する直前において、一部の互いに関連した生体信号の揺らぎが大幅に増加することが数理解析によって予測されている。したがって「揺らぎが大幅に増加した時点=未病の状態」と考えることができる。これに基づき、未病を、生体信号データの解析を介して定量的に直接検出することが可能となった。
まず、メタボリックシンドロームを自然発症するマウス(TSODマウス)を飼育し、3~7週齢まで1週間おきに、脂肪組織における遺伝子の発現量をマイクロアレイ法により網羅的に測定。次に、DNB理論に基づくデータ解析を行い、測定期間内で揺らぎの増加した時点の有無を調べた。その結果、マウスがメタボリックシンドロームを発症する以前の5週齢の時点において、147個の遺伝子の発現量の揺らぎが大きく増加していることが明らかとなった。
同研究において、DNB理論を用いることにより、特にメタボリックシンドロームへと至る過程における未病を検出した。さらに、これまでDNB理論が主な対象としてきた急性疾患だけでなく、メタボリックシンドロームのような緩やかな時間変化をたどる疾患にもDNB理論が応用可能であることも明らかとなった。同研究成果により、慢性疾患の予防・先制医療にもタイミングが重要となる場合があることが判明。今後、未病に対する効果的な予防・先制医療介入を考える上で役に立つと期待される。
研究グループは、富山大学から部局横断的に8部局と東京大学合原教授グループが参加する重点研究領域プロジェクトを立ち上げ、未病に関する研究を推進、また、未病に対する先制医療戦略の構築を開始。同医療戦略は、超高齢化社会を迎えた日本においての重要な医療問題の解決にも貢献することが期待されるとしている。
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